2023年7月6日木曜日

極私的七帝戦帯同記(2022年)④

男女決勝。

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 女子決勝戦。

 北大対京大。

 予選リーグでは勝利しており本日においても勝算は十分。ここはきっちりと優勝を決めて男女優勝への弾みとしたい。北大は松倉、後藤、若月の順。対する京大は主砲の中吉を先頭に置き、1人で決めきる作戦。

 初戦、松倉対中吉。組み手争いから中吉が引き込む。松倉は中腰で対応。左手側の襟と足を取られて危ない形。戻せたかと思ったところ、重心に掛けられた足を起点に返され、松倉亀に。不穏な展開。見れば松倉の左腕が出てしまい、中吉の足に絡めとられている。地獄締め、万事休すか。絞めを狙われるが松倉出来る限りの防御。中吉時間がかかると見たか、左腕の固定を一旦解除して今度は背につき舟漕ぎを狙う。松倉の身体が揺らされる。亀に戻ったところで不利のままに腰が固定されてしまう。已むを得ん。松倉、今だ、リスクを承知で今動くしかない。残りは3つ、その状態では差し切られてしまう。しかしこちらの想いとは裏腹にじわじわとした攻防が続く。遂に松倉の首に手が差し込まれてしまった。時既に遅し。しかし松倉最後の抵抗、中吉の消耗を狙い身をよじって暴れるも落ちてしまい一本負け。分け切れなかったものの次に繋ぐ意思は感じられた。悔しいがチームの勝利への布石にはなったはず。

 中堅には後藤。前日とほぼ同じ展開に会場の息が静まる。始め。ここも前日に違わず低い姿勢から組手争い。しかし今回は無理はしない作戦か、落ち着いた印象。正対下の後藤、中吉これを担ぐ。後藤ここは亀に回って逃れる。覆いかぶさる中吉に対し、後藤は身体を少しずつずらす。中吉が大きく動いたところに合わせて正対に戻した、巧い。正対の上下が逆転。後藤は重心を低くして距離を取り、安全圏を確保。そうだ無理をする必要はない。中吉は片襟片袖の形。固定できたところで足を跳ね上げ後藤を返す。後藤は再度亀。残り3つだ。中吉は後ろから絞めを狙う。後藤は入ってくる手と足に対処し続ける。残り1つ。中吉の回転に合わせて動き、後藤ここで再度正対に戻す。中吉は距離を詰めようと動くが後藤ここは一旦離れて待て。あと33秒。中吉組み際に大外。後藤はこれを腰を引いて躱し、潰れて回避。そのまま残りを亀で逃げ切って終了のブザー。

 勝敗の行方は大将戦に託された。北大の若月対、京大のオウ。オウも前に出るしかないことが分かっているのだろう、開始直後から攻めの姿勢で来たところ、若月落ち着いて対応し内股。ひとつふたつと足を継いで跳ね上げれば、オウの背を畳に落とし切る。一本、お見事。しかし一縷の望みを捨てず、闘う意思を見せていたオウにも拍手を送りたい。

 チーム揃っての勝ち名乗り、女子は堂々の優勝を決めた。畳を降りた後藤が駆ける。試合に出ないメンバーも含めて女子全員で喜びを分かち合う。団体戦で勝利する喜びとはこういうことだと、見ていて自然にそう思えた。さあ次は男子の番だ。


 遂にオーダーが貼り出された。会場中の注意がボードに向かう。7年前のことが思い出される。あの時は両校の主砲(北大副主将今成と東北大主将大岡)が先鋒でぶつかり合うという中々見ないものであったので、当時を知るOBOGは半ば期待や不安があったことと思う。ちなみにこの時の東北大が先鋒今成を読んでいたのかどうかは知らない。聞くのも癪だし、しかし聞いたことがあったかもしれないがその場合は悔しさから忘れたのだと思う。

 閑話休題、昔の話は置いておくとして、以下に今回のオーダーを記す、名前(年目)。

北大は先鋒から横森(一)、長尾(二)、桑村(二)、石川(四)、坂田(四)、北川(三)、門馬(二)、タナカ(三)、澤田(四)、里信(三)、玉本(三)、藤井(三)、國次(三)、石田舜(四)、羽成(二)と、層の厚さを活かした布陣。特徴的なのは2年目白帯の長尾を初出場させ尚且つ横森の後ろの次鋒に置くという采配だろう。ひとつの賭けであったが、チームの意思としては分の悪い賭けとは思っていなかった。また中間はほぼ3,4年目で固めており前半を守り主軸、後半に攻撃的な選手を置き、相手エースに抜かれた後の巻き返しにも配慮する形。

 対して東北は菅原優(三)、花川(五)、有本(一)、石田(三)、津田(四)、菅原薫(六)、北山(一)、二階堂(四)、吉永(四)、千葉(四)、茂木(一)、脇野(三)、門馬(二)、菊池(三)、小寺(三)という陣容。こちらは先鋒の菅原優で勢いをつくり、主砲の菅原薫と二階堂は中盤に置いてここでリードを獲て逃げ切る目論見だろう。

 30人が整列する。会場中が見守る中、今年の最終戦が始まった。

 先鋒戦、北大1年目横森対、東北大3年目菅原優。組み際、菅原が流れるように座り込んですぐさま前三角、横森ここはすぐさま持ち上げて待て。再開後同じく座り込む菅原、横森は身体を浴びせてのしかかろうとするが、空中にいる間に身体を流されてしまい亀に落とされる。菅原は横森の側面につき首と股下を攻める。横森右手で菅原の膝を掴む、がそうではない、これは絞めを狙われている。守るべきは首と脇だ。しかし1年目にはこのあたりの対処は厳しい。菅原は横森のミスを逃さずそのまま腕を首に差し込み片羽絞め、背に回って横森万事休す。数秒耐えたものの参りを打ち一本。東北大から拍手が上がる。この際菅原は右の指を立ててこれに応じたが、これはちょっとどうかと思った。勝ち切ること、分け切ることの重要性を理解し尊敬している我々にとり、この手のアピールはパフォーマンスが過ぎている気がして個人的には好みではない。北大の側でも似たようなシーンは時折見られるが、恥ずかしいのでやめてほしいと思っている。閑話休題。兎も角これで早くも東北大がリードを取った。


 退場する横森に替わり、北大の次鋒は2年目白帯の長尾。東北大は一同「ここも取るぞ」という雰囲気。体格はあるものの脅威は無いと感じ取ったのだろう、菅原は戦意満々に前へと出てくる。組んでから余裕をもって引き込み、下からの返し、長尾これに合わせて跳んで躱したところ、菅原はなおも下からの攻めを狙う。まだ距離はあるものの長尾が上から足を抱え込んだ。この瞬間北大から拍手。あの時北大陣営の心情は一致していた、内容は「かかった!」のひと言。このとき東北大陣営はまだ気づいていなかっただろう。菅原自身も違和感は覚えたようだが方針転換はせず、両者暫く静止したのちに菅原が足を開いた。ここで長尾は菅原の両足の間に身を入れ込み、その脇で菅原の足を固定、身体を落として不動の構え。菅原攻めあぐねる。暫くもがき、ここからオモプラッタを選択。しかし長尾の巨大を押し切るには足らず。菅原不発を悟るや切り返し前三角を組もうと動く。長尾ここは持ち上げて待て。宣告の後、菅原が首筋を抑えて動かない。変な動きはなかったはずだが。主審が促すと不承不承と言った具合で開始戦に戻る、長尾困惑した様子だが、ここは気にする必要は無い。始め。再開後またもや菅原が引き込む。長尾も同じく足を脇に抱えようとしたところ菅原のバカ締め。長尾これには少々慌てたようだがきっちり対処して戻す。菅原有効打を見つけられないのだろう、表情が開始直後のそれとは異なってきている。実はこれこそが北大の作戦だった。この前夜、決勝のオーダーを考える際に突如降って湧いた案。「寝技主体で攻めてくる相手なら、それも正対下から始める選手なら長尾でほぼ止まるんじゃないか?」皆が「確かに」と思った。現役部員でなくとも指導陣でさえ、正対上の長尾が一旦安定した形を取るとこれを崩すのは非常に骨が折れる。全員が数秒考えた結果ほぼ満場一致での賛成。以上が東北大戦に長尾が起用された理由だった。試合の話に戻る。大きな動きは無し。残り2つ。場外際のためそのままがかけられる。ここで主審が不可解な動き。副審を呼んだがしかし自らは離れてしまった。ここは状態の保存のためにも3人がかりで引きずって移動させるのが妥当な場面のはず。この結果長尾は握っていた手を放し、北大陣営からの「離すな」の指示ももう遅い。結局微妙に形が変わった状態で「よし」の宣告。菅原の動きに長尾ついていききれず、離されてしまう。元の形なら違っただろうに勿体無い。長尾ここで前に出るが躱され逆に亀に。その背についた菅原は絞め狙い。長尾の首に手が入ってきた、危ない。腰絞めだ。ぎりぎり長尾の手が間に合った、首の手が剥がれた。しかしまだ。再度菅原に後ろにつかれる。残りは1つを切った。ここは辛抱だ長尾。菅原は首と脇を狙う。長尾今度はどちらもきつく締め込んで隙を見せない。残り20秒、10秒。菅原は最後に十字を仕掛ける、が長尾動かずブザー。この引き分けは大きい。

 北大三峰は2年目桑村、東北大次鋒は5年目花川。まずは組み手で距離をとり、引き込む花川に対し桑村は中腰で対応。胴絡みには距離を詰めて固定、花川が距離を整える際にすかさず蹲踞。良い反応だ、状況の固定ができている。上級生相手で最も怖いのは経験値の差、つまりは様々な状況に対応能力の差である。動かされれば自然と最も弱いところが露呈し、そこに付け込まれるリスクがあるわけだ。しかし桑村は正対上で維持しておりこの点安心して見ていられる。花川は無理を押して攻めに行こうとするも、桑村は断固として維持。安定のまま残り2つ。身体を引き延ばされかけたところ、桑村なんとか持ち上げ待て。宣告の直後桑村力が一気に抜けたか、花川が少々勢いのある形で畳に落ち、主審これにバスター疑惑で注意を与える。多少気にしても良いが、気に病むことはない。幸い、桑村はメンタル面にはていひょうがある。大丈夫だろう。再開後花川が前に出てくる。桑村は距離を保ち良いところを取らせない、場外、待て。再開後も引き続き立技で捌き花川に手を与えず。焦れた花川が引き込むが桑村当初の形に戻す。それでよい。残り30秒。ここで花川の右手が桑村の帯を捉えた。桑村亀になり身を固める。花川は背につき右に左に回転するも、桑村は隙を与えず。場外での動きを止められないと判断した主審は待てを宣告。残り2秒、はじめ、すぐさま時間。2年目ながら流石の安定感で失点を防ぐ。

 北大四峰には4年目石川、東北大三峰は1年目有本。石川ここは取りたいところ。開始後石川が引き込めば、すぐさま有本の右足を抱えて流す体勢。成功。じわじわと登り、亀の横についてネルソンを狙う。下半身は固定でき、有本の右足を捉えたが首と脇は不十分。中々に堅い。1年目にしてこの亀の水準は、東北大の教育力の高さが見える。石川反転しての抑え込みを狙うが、ここは有本の反応が良く正対に戻される。残りは4つを切ったところ、まだチャンスは作れる、ぜひともここで取り返しておきたい。石川は有本の肩越しに帯を取ったところ、ここで有本が前に出るような動き。腰が浮いておりこれはチャンスり石川身を潜らせて返せば足抜きの形に落ちる。しかし右足は二重に絡まれている。石川二重絡みをそのままに腕緘みを狙うが、それは流石に無理がある。まずは足の解放が必須。言えぬ心配をよそにここは有本が1年目であることが幸いしたか、腕の攻防に気を取られ二重絡みが緩んできた。残りは1つと40秒。石川今度は首極めに切り替えて縦抜き。抜けた。抑え込み、しかし形は不安定。ここを逃せば恐らく次のチャンスはない。抑え切れるか。有本が必死のブリッジを繰り返し、北大陣営は祈りつつの30秒、どうにか過ぎた。一本。ここでタイに戻す。しかし石川、拳をつくってのアピールはやめてほしい。相手への敬意が損なわれるように思える。恥ずかしい。

 東北大四鋒は3年目石田。立って寝ての両輪を持つ抜き役。石川ここが勝負所、きっちり引き分けて務めを果たしてほしい。開始早々組み際、石川が引き込んで石田の足を二重に絡めとる。石田はこれに応じて足抜きの形。よし。一般的にはピンチにも見えるがここは石川得意の形。絡んだ足の位置も現状問題は無い。1人抜いた後のスタミナだけが不安要素。何としても抜きたい石田。残りは5つ。ここで石川の首を抱えて縦に抜く形、足首まで抜けてしまい危ないところ。しかしギリギリの攻防、石田の不安定さを見抜いて動いた石川が競り勝ち反対側に返す。次いで足を戻し胴絡みの形に入った。がしかし安定し切る前に持ち上げられ待て。残り時間は4つ、まだまだ長い。再開後またも同じ形。石川は足を絡んで得意のパターンに持ち込む。上体を固めようとする石田の無理を感知、隙を見て二重に絡む。良い流れ。残り2つ半、石田の上体をずらすことに成功したが、ここは石田が大きく動き、前進の圧に負けて石川亀に。前につかれて横三角を狙われる。がそれは普段から散々同期にやられている形でもある。石田必死に返すが、これは準備が甘い。石川は返しの直後の不安定な一瞬に足を絡む。二重絡みに移行、抱き着いて石田の上体を縫い留めればブザ-。今の流れは北大にある。

 五鋒対決。北大は4年目坂田、東北大も4年目の津田。幹部同士の対決。会場の息が詰まる。前に出る坂田、強気だ。津田が下がりつつ引き込んだところすぐさま横に捌けば、たまらず津田は亀になる。坂田は横について得意の形。ここは場外間近のためにそのまま。今度は互いに状態を保ったまま中に戻って再開。経験者同士だとこうなるので、変な心配は不要。坂田有利の形のままで、ここは取って次の菅原薫に当たりたいところ。津田の首を狙い絞めに回るがここは津田の対応が早く逃げられる。上下逆転して正対するが、坂田すぐに立ち上がり離れて待て。再開し、津田の引き込み坂田は捌く、津田再び亀。坂田今度は津田の腰を潰して逃がさないようにする。続いて首を取って津田の身体を回せば、これはいけるか。がしかし津田がすんでのところで回避。正対して残りは4つを割ったところ。正対下の坂田は頭の方に動いて距離の修正を図るが、津田に足腰を握り止められて上手くいかない。正対上の津田が自ら背をつけ下になったところ、坂田動いて隙をつき、片しかし前進は困難と見たか離れて待て。始め。津田が引き込み、坂田合わせようとするが津田慣れてきたか対応され今度は捌けない。やはりこのレベルだとチャンスを作るだけでも難しいか。残りは半分。坂田不用意に出した左足を抱えられ体勢が崩れてしまう。流石にこれは振りほどけずに時間、最低限目標達成ではあるが悔しい引き分け。

 六峰戦。北大は3年目北川、東北大は6年目菅原。菅原は1年目の頃から出場しており優勝も経験している。自らの巨躯の活かし方も分かっており、経験の長さからくる技術の幅に加え、試合勘も十分心得たもので相手としては相当に厄介な部類。北大優勝の大きな壁のひとつ。始め。北川はここは立技で引き分けを狙う。前に出る菅原、喧嘩四つで北川の襟と袖を取る。場外に出て待て。再開。立っての攻防は続き、再度場外。組み手争いの中、北川の左手が菅原の顔に当たった。いや北川、気にせずとも大丈夫だ。残りは5つ。菅原投げは分が悪いと見たか今度は引き込んだ。北川すぐに離れろ。思うも空しく、足を抱えられ回転、菅原に上下逆転されたところでそのまま。ここで菅原出血、一時救護の下へ。北川、集中を切らすなよ。戻ってきて中央部で再開。正対上の菅原が前に出る、単純な押し込みであったとしても、この体格差では防ぎきるのは困難。北川抑え込みは逃れるがどうしようもなく亀になる。菅原はやはり6年目試合運びが巧い。しかし、北川は何とか耐えてくれ。北川の亀に対し菅原は首と脇を狙う。そのまま北川を一旦振りまわして返すが、北川ぎりぎりでこらえて回転、よし正対に戻った。ただし十分な距離感ではない。菅原の圧を躱すにはもう少し距離を稼ぎたいところだがそそでそのまま。北川の右足先が菅原の上位に巻き込まれており危険と判断され、掛かっていた足が外される。よって再開後はこちらが不利な体勢、浮いた足が菅原に担がれ一気にピンチ。北川抵抗し足を入れ込むが、この体格差は受け流し切れず動きが止まったところで抑え込みの宣告。ブリッジを狙うが返せず。菅原崩れ上四方に移行、北川は全身で抵抗するも30秒が過ぎ去る。一本。

 北大七鋒は2年目門馬。北川と比較すると技術は劣るものの、体格がある。分け方のタイプは全く違うから、上手く噛み合えば何とかなるはず。始め、落ち着きたい菅原に対して門馬前に出る。良い判断だ。主導権を握られるとリスクは急速に増大していく。菅原の息は荒い。消耗具合もかなりのものだろう。喧嘩四つ、釣り手を突き合う形。よしよし、力負けはしていない。菅原焦れたか、片襟のみで内股を掛けるがこれは効かず、場外で待て。門馬安定している。いいぞこのまま終わらせたいところ、残り3つ。ここで菅原が引き込んだ、流れが変わりかねない、危ない、と思ったところ場外で待て。菅原の引き込みと待てのどちらが早かったかは定かではないが、安堵。再開、門馬は先に同じく釣り手で距離を取り、菅原に優位を与えない。しかし菅原に多少の勢いが戻って来ている。内股。ここは門馬堪え、寝技に雪崩れ込む菅原から即座に離れる。残り2つだ。組んだところで菅原がまた引き込んだ。がしかし門馬もきっちりと反応してすぐに離れて待て。流れは与えない、良いぞ。残りは1つ半。内股に来たところを耐え背に付こうとする、その瞬間菅原が一気に振り返り足を取ろうと出てくる。門馬ここも反応し、安全策で離れて待て。かなりのプレッシャーだろうに、まだ判断力は落ちていない。再度組み手の攻防。場外、待て。どうにかこの流れのままで終わらせたい。ここで門馬に場外注意が与えられた。だがしかし残りは45秒。下手なことをしなければ凌ぎきれる。門馬、大丈夫だそのままでいいぞ。残り20、10、5,ブザー。堂々の引き分け。菅原を2人目で止めたのは大きい。北大勝利への基礎が築かれてきている。

 中堅には3年目の田中、東北は七鋒1年目北山。田中にはここで1点取り返してもらいたいところ。開始から10秒、組み手争い最中に田中巴投げ。北山を完全に浮かせたが、ギリギリで半身を切られ技有。田中動じることなくそのまま亀取に移行。横三角を陽動に遠藤返し狙い。北山反応が良く甘い横三角に合わせ自ら回転して逃れようとする。田中一旦亀になるがすぐに立って逆転。亀取を維持。今度はじっくりと横三角をつくるが、しかし既に陽動であることが見抜かれている。田中ここは立ち上がって待て。仕切り直しだ。潰して亀取、立っては巴投げを狙う。北山合わせて動くが、田中はこれを更に切り返し再度亀に落とし、同じ流れに持ち込む。残り3つ。今度は北山の身体を引き出し、崩しを十分に利かせる。しかしここでも北山の隙間は空かず。下半身けら崩しにかかるが容易ではない。残り1つと20。田中ここで一旦離れて待て。再開後北山を潰して亀取を狙うも不十分、またもや離れて待て。亀への移行の際に狙うが上手くはいかず。時間。悔しい引き分け。

 北大は1点ビハインドのまま中堅4年目澤田、東北大七鋒はこれも4年目二階堂。菅原薫に続きもう一つの大きな壁。ここが分水嶺。下手をすれば延々と抜かれかねない相手だが、実のところこの時点で我々北大陣営は対策を立てることはできていた。つまり二階堂の強みは明白で、最も怖いのは亀取、横付きからの絞めであり、しかし他の攻め手はこれに比べ2つ3つは格が落ちる。依って可能であれば立技で、体格差で振り回されるなら引き込んで正対、亀にだけはなるな、なっても最悪抑え込まれろ、という作戦であった。最悪5人で止められれば、まだぎりぎり勝ちの目は残ると、そういう判断をしていた。果たして澤田が選んだのは立ち分けであった。開始以降徹底して、腰を引きひたすらに二階堂の引手を絞り落とす。二階堂は対策されているのを理解しただろう。その上で取るべく澤田を振り回す。澤田は試合場をフルに使って立ち回る。場外際での攻防が続く。残り3つ。ここで澤田に場外注意が入った。今時間帯での注意はペース的に危ない。積み重ねで反則負けに届き得る。当然二階堂もこれに気付き、立ち回りが若干変わった。流れが傾きつつある。場外際、待て。ここで逆に二階堂に押し出しの口頭注意。これで嫌な流れもひとまず落ち着いた。本音を言えば、個人的には場内外関係なく、互いが積み上げたもので向かい合うのが筋と思う。しかし現役の彼ら彼女らとしてはまずは結果だろう。規程の間隙を突くその気持ちも十分に理解できる。澤田このまま逃げ切れるか。残り1つ。ここで澤田に警告が与えられた。次はない、が、この時間なら何とか、あとは信じるより他はない。もう引き込んでも良いだろう、最悪亀でも凌ぎきれるのでは、と思っていたが、澤田は立ち続ける選択。だがよし、まだ足が十分に使えている。きっと大丈夫、総て振り絞ってやり遂げてほしい。待て。残りは8秒だ。もう、ほとんど何をしても終わらせられる時間だ。だが澤田はの動きは変わらない。ここで安易に背を向けたり、亀になったりしないところに彼の芯の強さを感じる。いよいよブザー。北大陣営からは万雷の拍手、澤田は雄たけびを上げた。誰に向けるでもない感情の爆発があった。開始線に戻った時にも良く分からん動きをし、多分本人も自分が何をしたいのか分かっていないのだろう。しかしこの引き分けにはそれだけの価値がある。5~6人抜かれることも想定していた菅原と二階堂を計3人で止め切った。後半の駒の総力はこちらが上回っているはず。1人差を巻き返しての優勝、道が拓けた。あとはそれを現実のものとしていくのみ。

 六将は3年目里信。東北大は七将4年目吉永。里信は組み際の投げを狙う。九大戦とは打って変わって生き生きとした動き。吉永は身を低くしてここを守る。里信長いリーチを活かし吉永を潰して亀に。ここで残りは5つ。よし十分に時間はある。確実に取りたい。吉永の頭を潰して横三角を狙うがやはり守りは固く、里信一旦離れて待て。吉永には立姿勢から直接亀にならぬよう口頭注意がなされる。再開、組み手争いの中で吉永が身を引いたところに大内を合わせれば、そのまま浴びせ倒してこれが一本。勢いが何とも言えないところで、審判により判定は分かれそうな印象。ただし流石決勝、両者とも寝技の展開に備えていた。だが判定が変わることはなく決着。北大に流れを寄せる一勝となった。

 里信の続く2人目は六将4年目千葉。確か彼は初心者スタートで基本は分け役だったと思う。しかしここにあっては気合十分、猛然と前に出てくる。4年目としての意地、形振り構わぬ圧を感じる。里信これに飲まれることなく、落ち着いた立ち回りをすれば千葉が引き込む。里信ここはすぐに引き上げて待て。再開、前に出る千葉、里信は遠間から牽制して時間を使う。ここで待て。里信に組み合うよう口頭注意。里信今度は前に出て組みに行けば、千葉は引き込もうとする。里信は掴んだ道衣を十分にコントロールして千葉を亀に固定。千葉の頭を潰して動きを止める。残りは4つを切ったところ。無理することはない、そのまま潰して終わらせたいところ。残り2つ、ここで里信が急に離れた、何故だ。本人のみに分かる何かがあったのかもしれない。再開後組み手争いから大内刈り、ここは千葉が反応、前に潰れて回避。里信が亀を嫌って離れようとしたところ千葉が前進。捕らえられる寸前、里信これを切って跳んで躱す。少々ヒヤリとする展開だったが事なきを得た。待て。残り1つ半。組み際の大内は躱され、しかし千葉を再度亀に固定。ここで里信の勢いが完全に停止、スタミナ切れだろう。幸い優位を取れていたためそのまま固めて時間。引き分け。

 タイのまま五将戦。北大は3年目玉本、東北大は1年目茂木。茂木が引き込んだところ、玉本左に捌き、茂木は亀に。玉本その背に取り付いて足を絡めとりネルソンの構え。茂木が身を切ったところに方向を合わせて返せば足抜きの体勢に持ち込んだ。このチャンスで極めきりたい。玉本確実に茂木の腕を縛り、そのまま足を抜けば抑え込み。茂木が身体を捻った瞬間、空いた背中に腕を差し込み崩れ上四方、盤石の抑え。30秒を抑え切ってここで北大が1人リード、逆転に成功。

 玉本の2人目は四将3年目脇野。玉本奥襟を取られ、圧し潰されて亀。脇野に頭を潰されるが、降りてきた左袖を掴み取る。しかし腕の固定まではできていない。脇野の動きに振り回される。脇野の右腕が腹に入ってきている。玉本、離れろ。まだ浅い、今なら間に合う。玉本しかし逃げ切ることはできず、脇野は右腕で玉本を煽り、体勢を崩されてしまう。2度3度と繰り返して位置を調整され、遂に裾端の良い位置を握られてしまった。必殺の位置。玉本どうにか逃れてくれ。しかし願い空しく、脇野は十分な勝算を持って返しにかかる。玉本多少踏ん張るがやはり競り勝つことはできず、抑え込みの宣告。こうなれば残り時間を使い切り次に繋ぐしかない、玉本、振り絞れ。その抑え込みは脇を制しきれていない分、まだ動く余地があるはずだ。玉本暴れるものの振り解くには至らず、30秒が経ち一本。状況はタイに戻された。

 北大四将には3年目の藤井。ここは再びリードを奪わんと前に出る。脇野は一旦落ち着きたいのだろう若干身を引く展開。藤井そのまま押し切って脇野を潰し、亀になったところ、横三角を狙う。これに脇野が反応し、その拍子に首が空いた。藤井一気に右手を差し込み身を躍らせる。背中の方へ回り込めば送り襟絞めの形になり、脇野数秒耐えるも参りを打って一本。藤井の一連の動きに見る勘の良さは固有のもので、教えてできるものではない貴重な資質。ともあれこれで1人リード。

 藤井の2人目には三将2年目門馬。北大の門馬とは双子の兄弟。開始早々藤井の内股、門馬これは腹から落ちてポイントは無し。藤井そのまま亀取に移行するが、門馬の手が藤井の足を掴んでおり思うように動けない。藤井ここは一旦門馬の頭を捉え座り圧を掛ける。じっくり勝負をする構え。じわりじわりと圧をかけ続ける。足の固定が緩んだ瞬間、藤井ひと息の内に門馬を振り切り立ち上って待て。残り4つ半。藤井立技で奥襟を叩けば門馬は畳に落ち両膝を着く。しかし藤井の袖は持たれたまま、思うようには潰せない形。要所要所で守りが行き届いている。如何にも東北大の分け役というべき細やかさ。日々の練習の賜物だろう。藤井は何とか亀にするも、門馬にじわじわと前に出られて捕らえられるリスク。ここは一気に離れて待て。再開後も藤井の投げ技に合わせて潰れ亀で守る門馬。藤井は中々ペースをつかめない。残り2つ。亀にできるものの隙がない。ここで審判が動く。門馬の立技から直接亀に移行する動きに口頭注意。だが残り時間は1つと少し。ここから反則を積み重ねさせようとしても難しいところ。再開。藤井は変わらず立技からの攻めを狙う。門馬が崩れたところで首が空いたか、背中に回って絞めを狙う。しかしここは顎にかかっていたようで決まり切らず、しかし絞め手がずれてきたところ最後のチャンス、十字を仕掛けるも対応されて時間。ペースを引き寄せられず引き分け。

 三将の3年目國次、東北大は副将同じく3年目菊地。終盤戦だ。必要条件ではないものの、出来れば國次には取ってきてもらいたい。北大優勝の確実性を積み増ししてほしいところ。始め。組み際得意の小外刈り。タイミングは悪くないようだったものの、ここは菊地の引込優位とみられポイント無し。続いて正対上から攻めを狙う。しかし菊地の足の利きと柔軟性に優位を取れず、引き上げて菊地の肩が畳を離れたところで待て。再開後も流れは変わらず、引き込まれれば菊地の足を越えられず、距離を詰めて担いでも受け流されてしまう。離れるにしても菊地は手足の長いタイプ。油断すれば足を取られ刈り倒されかねず、妙に嫌な時間が続く。残り5つ、4つ、3つを切った。お違い決定打はない。國次は防御姿勢をメインに変えている。確かにリードしている今、それでも問題は無い。残り1つ半。菊地が一瞬離れたところ、國次距離を取って待て。菊地は出血のため救護の方に移動。待つ間國次は腰を落とし息を整える、消耗が激しいようだ。再開、後がないのは東北大側、菊地はリスク承知で攻めに来る。正対下から襟を取り、また足を取り、身を傾けて崩そうと迫る。國次ここは無理せず分けに徹して時間。引き分け。

 北大は副将の石田と大将の羽成の2人を残し、東北大は大将の小寺のみ。

 副将4年目石田対大将1年目小寺。両校正座して場内を見守る。相手は置き大将。石田、お前で決めてくれ。開始早々、石田は背水の小寺を圧倒せんと掴みかかれば、小寺たまらず亀になる。石田は小寺の襟と帯を取ってそのままを貰い中央へ。よし。石田圧をかけて小寺の上体を固定し、続いて小寺の足を掬い上げてそのバランスを崩させれば、腹の隙ができたところに腕を差し込む。ここから1度2度と大きく煽り腕を深く入れていき、行けると踏んだか肩越しに帯を取って返して抑え込み。少々荒い形ではあるもののここで終わらせてくれ。5秒、10秒、石田の口から猛る声が出る。抑え切るための気合か。15秒。両チームからの声が響く。抑えられている小寺は必死の形相で逃れようとしている。抑える側の石田は、顔を下に向けており表情は窺い知れない。また石田の雄たけびがあがる。20秒、抑え込みにずれはない、25秒、まだまだ間違いない形を維持。30秒。一本。勝った。遂に優勝。2011年入部以来、一度も見たことの無かった場所に、ようやく立ち会えた。

 15人で勝ち名乗りを受け全員が試合場を離れる。男女も指導陣も車座に集まり、肩を組んだところで「いいですか?」、澤田が尋ねる。清田監督が応える。澤田の前口上。続くは勿論、都ぞ弥生。


 3年ぶりの2日間が終わった。七大学柔道関係者として、でき得る最大限の形での開催だった。次は東京、きっと観戦も出来る世の中になっていることと期待し、男女連覇を目標に精進したい。

 結びに、七帝戦の実施に当たり関わっていただいた全ての方々に感謝し、キーを打つ手を止めることとする。

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2023年7月5日水曜日

極私的七帝戦帯同記(2022年)③

2日目、男子準決勝。

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 2日目、まずは男子準決勝が、次いで女子決勝、男子決勝の流れとなる。北大は昨日の勢いのまま、男女で優勝を得たいところ。


 まずは男子の準決勝、九大戦。

 九大には例年負けん気の強い選手が多く、相手を問わず勝負する確率が高いことが特徴である。北大の白帯スタート組との相性が良くないイメージ。技術的に勝っていても勢いに呑まれてしまい、という事例が少なくない。反面実力差があると却って御しやすい部分もあるので、結局はチームの総力として積み上げたもののが勝敗を分ける、ということは変わらない。

 第1試合場に両行のオーダーが貼り出された。北大は抜き役と分け役をバランス良く配置する王道の布陣。層の厚みを十分に機能させるのに、奇を衒ったことはしなくともよい。皆迷わず戦い抜けばよい。

 先鋒戦は2年目桑村対、九大1年目野中。桑村距離を保ち慎重な試合運び、残り4つを切ったところで亀になるもの野中に付け入る隙を与えず。1分ほど時間を使ったところで野中が諦めて離れたところで待て。再開後、桑村引き込んで下から捕らえにかかるが、ここは野中に握りを切って離れられ待て。その後も前に出る野中にチャンスを与えず、盤石の引き分け。

 次鋒戦。4年目里信対、九大2年目の原。里信中距離から組手を伺う。里信は身長の割に腕が長く、どんどん前に出た方が相手としてはやり辛いと思うのだが慎重な構え。ここは取りに行くところでないということか。確かに里信は独特の空気を持ち、4年目も彼は自由にさせているとのことだが。畳上がどうもきな臭い雰囲気に見える。つかず離れずを保ち残りは3つを切った。組み合ったところ原が担いだ。里信は一瞬背に乗せられるが何とか落ちて亀になる。上についた原に前から狙われるがこれに対処。原が一気に里信を前に引き出した。すぐさま背中に回ったときには里信の首も湧きもがら空き、そのまま片羽絞めに取られ、里信参りを打ち一本負け。ちょっとこれは予想外。九大はこの一勝に大いに湧く。

 北大の三峰は1年目横森。ここは何とか流れを取り戻したいところ。原も体格で劣るからか、ここは距離を取る。横森じっくりと間合いを詰めて背を叩く。得意の形。帯取返しを狙っていたところ原が切り返して裏投げに出る。横森もこれを投げる動きをするも制し切れてはおらず、どちらも投げたような形。主審ここは両者ポイント無しの判断。次いで早く動いたのは原。横森抑え込まれかけるもここは亀に逃げてそのまま、中央に戻される。こういう勝負所を創ってくる辺りが九大の選手の怖いところ。再開。横森前から潰される。だがここは十分耐えられるはず。軸を保った横森、じわじわと原の片足を握り動きを止め、前へと立ち互いに離れる。がまだ何も宣告されていない。横森これに先んじて気づき、背を向けた原を追う瞬間に主審が待ての宣告。七帝では自己判断は禁物である。始め、再開。再度立ち技。ゆっくりと間合いを詰めて襟を取る。原は横森の胸を突いて守りの姿勢。横森これを崩そうとするが、原の頭は下がらず。残り1つ半、原が崩れた。好機だ横森。背を取り縦返しを狙えば原向かい合うように動く。しかしここは横森の動きが早い。下になった原の背中越しに帯を取り足抜きの体勢。残り1つを切っている。上体の固定は甘いが時間がない、強引に動こうとするが抜けずブザー。引き分け。

 北大四鋒は2年目の門馬。対して九大三峰には3年目の小林。相手は白帯、且つ体格で勝る門馬としては、ここは取りたいところ。開始早々小林に引き込まれるが門馬すぐさま持ち上げて待て。引き込みに合わせて投げるつもりか。再開、際の攻防が続く。残り5つ。門馬組んだところで払い腰、しかし小林反応して腹ばいに落ちる。門馬、亀取だ。前につき横三角を狙うが、小林は身を縮こませて不動の意思表示。門馬ここで一気に勝負をかけ、小林の肘と膝を取りフライパンで返す。高々と持ち上げて返す、ここは勢いのまま固めてしまえ。門馬そのまま袈裟に固め取り、30秒抑え切って一本、これでタイに戻した。

 門馬の2人目は3年目大谷、ここがひとつ正念場だ。門馬まずは立技、組手で大谷を縫い留めて凌ぐ。よしよし、安定している。大谷引き込んで下からの展開を狙うが門馬これは耐え、しっかりと持ち上げ待て。隙の無い対応で大谷にチャンスを作らせない。流れをつくって安定、時間を使う。残り4分半、ここで大谷は巴投げを仕掛けるが門馬危なげなく反応。門馬は引き続き距離を取る。その後の正対。ここは距離を保ち、残りは1つを切った、もう少し、このまま終わらせるぞ。30秒、大谷引き込むと見せて逆技、足技を仕掛ける。やはり勝負に来たか。だが門馬これを何とか凌ぎきる。大谷に背に取られるも耐え抜いて引き分け。最後の最後は少々危うかったがきっちり仕事を果たし、安堵の帰陣。

 五鋒戦は北大4年目坂田対九大1年目竹綱。坂田開始早々に引き込めば竹綱はたまらずといった風に引きはがして逃げの一手。しかし坂田も4年目の巧みさ、逃さず袖を捉えて背中につく。立った竹綱を前に落とし亀取へ。得意の横付き。場外際から一旦そのままを貰い中央に戻れば、背につき竹綱の胴を引き延ばしてネルソン狙い。抑え・絞め・関節全方向への多面待ち。対応の遅れた竹綱、坂田その首元に右手を差し込み、弓矢絞めに移ってキリキリと絞り上げる。竹綱遂に万策尽きて参りを打ち、一本勝ち。リードを得る。

 2人目、続くは六峰2年目の内海、出来ればここも取っておきたいがどうだ。始め。組み手争いは互角の様子。出てきたばかりの内海の方が気合十分といった印象。強気の内海に組み取られ、投げを受ける。反応したものの亀にされ、坂田一転守りの展開に。内海は坂田の頭上、斜め前について隙間を作りに来る。万一の不安はあるが坂田、頼んだぞ。内海続いて召し取りへ。坂田ここはきっちりと対応。掴まれた腕はやらじと体を切る。一旦亀に戻ったが再度横付きに迫られる。ただし今回は坂田の首・脇・腕のどれも無事。場外際のため一旦そのままを掛けられ中に戻された。内海暫く横付きを起点に攻めるが残り1つに差し掛かったところ諦めて立ち上がる。始め、再開。坂田今度はうまく引き込んで内海を胴絡みに捉えれた。もう大丈夫だろう、内海のは前に出られず、時間を使いきって引き分け。戦果は十分。

 六峰は4年目の石川。九大は七鋒1年目の甲斐。石川は組むや引き込み甲斐の足を捉え、自ら足抜き下の形。しかしこれは得意の展開。石川の腕が甲斐の背を越えて反対側の襟を取った。振り子の体勢。甲斐の脇の下を潜り抜けた石川、ここからネルソンに移る。機を窺い返すが甲斐もよく反応、一気に抑え込みとはいかず。だが問題ない、こちらは依然有利、チャンスは作れているのできっちり取り切ってほしいところ。石川次は甲斐の背に取り付いて舟漕ぎ、絞めを狙う。首と脇に甲斐の注意を散らし、再びのネルソン。返して抑え込みに入るがしかし逃げられる。再度足抜き下からの展開。まだまだいける。三度ネルソン、抑え込むもまたもや逃げられる。やはり本番で必死に逃げる相手を抑えるのは困難か。最後にチャンスを作るも仕留め切れず無念の引き分け。

 北大七鋒は3年目藤井、九大は中堅、3年目梅野。まずは両者組手で様子見の展開。藤井は梅野の袖を絞り落とす。無理をしない方針だろう。対する梅野は前に出て来る。藤井組手で捌き梅野に攻め手を与えない。これは良い流れをつくれている。残り3つ、このまま終わらせて良いぞ。両袖を絞った藤井は安定、浮足立ってきた梅野。残り2つ。ここで藤井が一気に飛び込み巴投げ。決まったか。しかし梅野ぎりぎりで身体を捻り技有の判定。すぐさま切り返してきた梅野、藤井もしっかり反応して攻防のバランスを維持。再度立ち技の展開に。距離が詰まり相四つの組手。梅野乾坤一擲とばかりに跳び十字を仕掛けるが藤井反応して千切り抜けて待て。1つを切って引き続き立技。場外にて待て。残り12秒だ。最後の最後まで組手を妥協せず引き分け。

 北大中堅は3年目玉本、九大は七将1年目清水。ここも無理せずの方針か、玉本じっくりと組手を選ぶ。清水は若干遠間から仕掛け、取りに行きたいような動きを見せている。こういう時の立ち技は、まぐれの一発もあり得るのが怖い。北大としては残りメンバー的に、敢えてリスクを取ることもないだろう。玉本喧嘩四つで深追いはせず。清水が引き込んだところこれは甘い。玉本足を取り崩しにかかるが清水も反応、逃げられる。1年目でもここで即座に動けるとは、やはり九大の選手は総じて勘が良いような気がする。恐らく練習姿勢の違いと思うが、確実性を重視する北大とは違い、日々勝負するような稽古を積んでいるのだろう。勿論一長一短はあるが。玉本その後も無理はせず、安定を取る。清水は投げを狙うが距離を維持して時間を使う。残り3つを切った。玉本引き込んで清水の胴を挟む。持ち上げようとする清水の足を抱えてこれを防げば、清水の上体も落ちてきて胴絡み。片襟を取って前に揺らして状態を維持する。よしこれは安定だろう。清水はこれを突破も持ち上げることも出来ずそのまま時間。盤石と言って良い引き分け。

 双方ともに後半戦に入ったところで、北大七将は4年目石田、九大六将3年目長塚。石田組んですぐに引き込む。下からの返し狙い。長塚これを嫌って身を引くが、石田は合わせて前に出る。長塚は対応が間に合わず亀に。好機。そのまま前付きに移行し得意の遠藤返しを狙う。腹をある程度制し一旦バランスを崩しに掛かったところ不意に長塚が完全に上を向いた。恐らく石田の牽制に合わせ、長塚賭けに出たのだろうか。しかし石田の方が上手、ここは冷静に上四方に制し、抑え切ってそのまま30秒、一本。北大はリードを2人に広げる。

 石田の2人目。五将2年目の濵村、石田先ほどと同じく引き込んで正対下から返しを狙う。浜村が嫌ったところを亀にして前付きに固定。頭に座り濵村を留めて一旦様子見。そうだここはじっくりで良い。石田は腹下に差した腕で濵村を煽る。濵村反応し転回しようとするが石田は優位を崩さず。括った腹を維持し、亀に戻して再度遠藤返し。今度は濵村の上体を潰して腰を近づけ、一気に回して覆い被さり抑え込み、そのまま30秒。石田2人抜き。

 3人目は四将、4年目の新貝。新貝は白帯を巻いてはいるものの、侮って良い相手ではない。石田ここは分けを選択、両腕を突っ張り防御姿勢。少々姿勢が悪い、新貝はここで取らねばと猛攻。石田引き込んで下から固定しようと試みる。しかしここはスタミナで上回る新貝が果敢に動き、石田は亀に緊急避難。下を向く石田に新貝は頭上に陣取る。絞めを狙っている。石田は下を向いて捻じ込まれる腕に対応。下手に逃げずにここで時間を使い切る考えか。新貝の左腕が腹に入ってきた。遠藤返し狙い。少々怪しい雰囲気だが依然石田は落ち着いている。自分が使う技でもある。勘所が分かっているのだろう、確かに新貝の握る位置は浅いようだ。十分対応可能な状態のはず。体格で負けておらず、押し切られるリスクは低い。唯一の心配は2人を抜いた石田のスタミナのみだがどうか。いや問題ないはず。新貝今度は右腕を動かし、石田の脇に差して返す工程へ。石田はこれを十分に耐える。亀継続。残りは3つを切った。新貝は一旦腕を離し仕切り直す。先ほど脇を掬った右腕を若干ずらし今度は石田の首側を持ち上げる。石田の背を畳に圧しつけ抑え込みの形。すんでのタイミングで石田もブリッジ。これを脱し再び亀。新貝は勢いに乗ったか最後の足掻きか、続け様に返す動き。石田少々分が悪い形だが十分に対処しているうちにブザーが鳴り響く。リードを維持して見事生還。

 北大六将には3年目の田中、九大は三将3年目の玉重。ここは取りたいところ、引き込まれた田中は玉重の膝を割ろうとするも、胴絡みに捕らえられる。田中ここは持ち上げて待て。再開。再度胴絡みにはまるが持ち上げて待て。玉重はここで出血があったか、一旦ドクターのところへ。大きな問題は無いようだ。再開。田中はみたび引き込み際に距離を詰めてここは成功、玉重を亀にして遠藤返しを狙う。残りは4分、ここは確実に仕留めたいところ。腹に腕を差した。しかし玉重の上体は潰せていない。田中不十分ながら返して展開をつくろうとするが玉重の守りは崩れない。見ていてもどかしい。そうじゃない田中、括り位置が浅いし、それ以外でのコントロールも甘いんだ。ここはもっと時間をかけてでも、返す前の仕込みを万全にせねばならないところ。しかしこればかりは積み重ねの差。上手くはいかず。一種のチャンス、玉重の右手が不意に前に出てきた。田中これを足で捉えるが普段練習していない動きは精度が悪く、土壇場の動きの例に漏れずやはり逃げられる。胴絡みを持ち上げて待て、残りは19秒、玉重の引き込みに合わせて動くも足を越えられず時間。

 五将に4年目の澤田。対する九大は副将4年目の吉田。開始すぐ、組んだその際に吉田小外刈り。引き込みとタイミングが重なり、澤田嫌な落ち方。殆ど一本の投げだったが主審これを技有と判定。投げの勢いと引き込む勢いの合わせと判断したのだろう。北大としては思わず胸を撫で下ろすような気持ち。当の両者も主審をちらと見るが、すぐさま次の展開に移行、ここで精神的な鈍りを出さないのは流石4年目同士。澤田は正対下で時間を使い引き分けを狙う。吉田は当然立技に機を見出しており、引き上げられて待て。組み際の勝負が続く。澤田は引き込んで胴絡みを、吉田は投げを幾度となく繰り返す。見ていて肝が冷える。残り2つを切った、お互いに消耗が激しい。ここで澤田の引き込みに吉田が一手のミス。距離を取れず近くに寄ったところを澤田見逃さず、左手で吉田の膝下、道衣を握り込んで固定。吉田引き剥がしにかかるも澤田はこの左手を離さず、残った右手を背中へと伸ばし、奥襟を取り固定強化に成功。必死の表情でこれを維持し、遂にはブザー。値千金の引き分け。澤田思わず畳を打って堂々の帰還。

 さああとはひとりだ。九大の大将は1年目松永。北大は四将の2年目羽成。体格で勝っているここは無理をせず、しっかりと引き分けに行けばよい。羽成引き込んで下から松永を引き付ける。松永嫌って離れようとしたところ、これを草刈りで倒せば上下逆転。下からチャンスを狙う、篤永に対し、無理をしない距離で圧を掛ける、松永なんとか羽成を動かそうとするもここは羽成に一日の長あり。動きを見せた松永に競り勝てば、そのまま亀にしその腹に腕を差し込む。取りに行ってもよい形だがしかし浅い。田中もそうだったがそもそも第一手の腹の差し込みが甘いのだろう。位置としては一見悪く無いように見えるが、ここ一番を捉えるには不足。2度3度と返すも決定打には至らず、松永の頭上に取り付いたまま時間。結果としては十分だが、内容としては今後の糧にしてほしい。

 とは言え終われば3人残しで勝利。北川、國次、大脇と3年目3人を温存できたことは大きいだろう。男女ともに決勝へと無事にコマを進めることができた。男子の最終戦は、東大を下した地元東北大。7年前の仙台大会の決勝と同様の組み合わせ。あの時一戦を落とした結果後半にかけて雪崩のように崩れ、苦渋を飲んだことが思い出される。借りはここで返したい。 

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2023年7月4日火曜日

極私的七帝戦帯同記(2022年)②

女子リーグ戦~初日終了まで。

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 男子は初日を終えて、続いては女子。今年は選手からの発案があり、参加校の同意を得て3人制の勝抜き試合というルールになった。女子の試合規程にこのような扱いは記載されていないのだが仕方のないことでもある。男子よりもさらに部員数が安定しない女子においては規程の安定的な運用は厳しい。よって毎年各校の主張で微妙にルールが違っているのだが、この辺りどうしていくのかもひとつの問題。

 

 本題に戻る。第2試合会場にて初戦は京大対九大。3人制の勝ち抜き試合においては、1人で勝負が決まってしまう可能性も十分にあり、その最有力候補が九大の猪川だった。京大女子主将の中吉が1人目の百田を巴投げから抑え込み一本を取ると、2人目の猪川とは引き込んで正対下から動きを縫い留めて引き分け。上背やフィジカルの強さ、センスはあるものの七帝柔道の知識や基礎技術には欠ける風に見えた。この辺りはまだまだ2年目というこということだろう。難しい局面もあったが分け切った京大の勝利。


 続いて女子第2試合、北大対東大。3人対3人の試合。先鋒は3年目松倉対1年目広羽。松倉低めの構えから組手を取り、行けると思ったかすぐさま大外刈り、広羽の背を畳に落とし一本。

 続いて中堅は2年目主将の河本。開始後、松倉同じく低い姿勢から様子を見つつ、組むやすぐさま引きこんで正対。左足を担がれ持ち上げられ待て。再開後2人とも組む前に足払いのような動きをするが、勿論組んでいないのでただの蹴り、これは些か問題あると思うのだが。ともあれ再度松倉が引き込む。両袖を捉え、足を使い河本の動きを止める。良い形だ。河本これを切って一旦離れて待て。残り3つ。組み際、松倉今度は何故か背負投げを仕掛け、前に潰れ亀になってしまう。体格では松倉が劣るのだが、耐えきってほしいところ。河本の攻め手を防ぎつつ、甘い横三角に合わせて亀を離脱、良い。そのまま背につき脇を取り返せば足抜きの形。縦抜きは固定が甘く、河本に回転され逃す。しかし引き続き背について安定し、このまま終了、務めを果たす。

 中堅3年目若月対、東大は大将の1年目水野。若月組むやすぐさま大内刈。倒し切って一本。北大は2人残しで初戦に勝利。


 女子3試合目は京大対北大。

 オーダーは松倉、後藤、若月の順。京大は中吉、オウ。北大としては、先鋒で中吉を止めればほぼ勝利確定とみてよいだろう。

 先鋒戦。組手争いから中吉が引き込む。正対。松倉は身を低くするが襟が切れない。そのまま流され背を取られる。まだ1分経っていないが大丈夫か。舟漕ぎから回転、脇を制されており状況は悪い。更に回転、松倉の首元に絞め手が入り込んでいる。絶体絶命か。主審もいつ落ちるかと食い入るように見守る。少しでもずれていれば何とか耐えてくれるか、どうだ。もう30秒は経っているが松倉の動きは止まらず、ぎりぎり耐えられるようだ。ひたすらに右手を絞り耐える。もう1分以上だ。中吉の絞め手が外れた、残り3つを切った。良し、と思った瞬間、すぐさま十字に移られる。松倉この展開には反応できていない。中吉は確実に両手のクラッチを引きはがし、遂には肘を伸ばしきった。ただ松倉の目は死んでいない。まだ耐えられるか、と見ていたところ審判が見込み一本を宣告。例年ならほぼ無かったであろう判断だが、これも途切れた弊害か。しかし審判としての客観的視点から見れば確かに、完全に極められており、尚且つ動きもしない状況を見れば宣告も已む無し、と言えるのかもしれない。所詮松倉の柔軟性は北大陣営しか知り得ないもので、こちら側が積極的に主張すべきだったのだろう。結局のところ、まだまだ闘える選手を畳から降ろしてしまうこととなった。無念。

 北大中堅は4年目女子主将の後藤。引き分けでも十分ではあるものの、 闘志溢れる雰囲気。仇を取る心づもりだろう。先の松倉戦では長く絞めていたから、腕の消耗も大きいはず。勝機は十分。低い姿勢で組み手争い、引き込むと片襟片袖で中吉を引き付け、片足担ぎにもしっかりと対応し優位を確保していく。横に返すもこれは不発、胴絡みで縫い留める。前に圧を掛ける中吉に、敢えて応じて前に崩せれば中吉思わず右手をで重心をとる。後藤残った左の袖口を制して身体を捻り、合わせて膝を掬って足元も固定し十字を仕掛ける。中吉対応し身を退くが後藤は構えを維持。中吉が位置を修正しようとした瞬間を崩し、後藤一気に股下をくぐる。極めたか、どうだ。次の瞬間には後藤身体を離して中吉は敗北の表情。主審遅れて一本を宣告。会場唖然。一瞬の後に拍手。見事、という他はないが、自己判断で離れてしまうのは少々いただけない。相手が「参ったしてない」等と言ってしまえば揉めることは必至で、過去にそのような事例も多くある。清濁併せた強かさも勝利の要素である、無情なことに。

 ともあれ京大は大将の1年目、オウを残すのみ。開始早々後藤気合の発声。オウもここは攻めるしかないと前に出てくる。後藤組際に横に振ってきたオウに合わせ横巴のような引き込み。技の判定があっても良い気もするが、無くても仕方ないか、と思う程度には勢いがあった。正対下、足の踏ん張りの無いオウにすぐさま腕を極め、またもや主審の反応の前に身を離す。王は伸ばされた腕を抱え込み完全に戦意喪失。一本の宣告もできぬうち、主審も戸惑いつつ後藤に勝ちを宣言。これで北大は2連勝。


 女子4戦目。九大対東大は猪川が2人目に出て3人抜きし勝利。少人数での勝ち抜き戦の怖さ。突出した個に対し、15人戦となればカバーの可能性があるところ、3人制では至難の業。ましてや彼女は2年目。脅威はまだまだこれから。

 

 女子5戦目、京大対東大。ここでは京大4年目中吉が東大のエース河本を取り、そのまま3人抜き。


 女子6戦目。リーグ戦の最後は北大対九大。ここまでの試合、猪川の動きが見えてきた分対策も立てられる。体力面や反応速度は間違いなく女子トップ。しかし七帝の細かな技術はまだまだ養えていないというのが北大陣営の結論であった。層の厚みでこちらが有利、勝機はある。

 北大は先鋒に若月。九大は百田。若月下がる百田に油断なく接近し、組み際に大内刈り一閃。一本。さあ次だ。

 九大大将猪川。若月遠間から袖を取り引き込む。横に捌かれ亀に。猪川は横三角、腕狙いと見せて若月の頭が浮いたところ足を組み2番。返され抑え込まれそうなところ、何とか足を差し込み事なきを得る。再度亀になったところ猪川が離れて待て。再開。一気に奥襟狙いの猪川を躱して引き込む。しかしすぐに持ち上げられ待て。引き込み際を押し込まれ、担ぎの体勢。若月ここは後転して亀。猪川続けざまに遠藤返し、崩れた若月の背について強引に返し、更に十字。息もつかせぬ攻め手だが若月要所は与えず何とか捌く。待て。再開後、若月疲れからか重心が少々浮き気味だ。途方もないプレッシャーに感じているのだろう。しかし残り2つまで来た。耐えきってくれ。だが猪川の攻めは激しさを増す。場外際来賓席近く、投げをこらえた、動きの止まった猪川の背が見える。若月がそれを捉えたところでそのまま。またとない好機。もう立たせてはならない。行けるぞ。しかし再開直後に猪川が振り切り待て。流石の勝負勘。劣勢は続き、若月は立っているのがやっとという具合。残りひとつ半。若月何とか組んだものの振り回され、足を刈られて技有。猪川の動きは止まらず頭に回り込み、丸まろうとする若月を圧し潰して横四方。若月もがくが脱出できず、25秒、合わせ技一本。残りひとつというところでこれは無念。

 中堅は後藤。気迫は十分、開始直後は慎重に間合いを見て低い姿勢。喧嘩四つでお互い襟を持ったところ、もう片方の手で猪川の右腕を取り引込十字を狙う。猪川腕はクラッチして守るが足は使えていない。チャンスだ、同期中山の「折れ」の声が響く。その通り。強者相手に中途半端なことはできない。折りに行くより他は無し。じわじわと位置を調整する後藤、遂に腕を伸ばす。しかし身体は猪川の両足に挟まる形、万全ではないが。後藤再度修正を図り、背筋も使って伸ばせば猪川参りを打つ。仕留め切っての一本。見事。

 結果、2人残しで北大の勝利。リーグ単独トップ。勝ち名乗りを受け3人足を揃えて場外へ、後藤が若月に抱き着く、いたわりと安堵がないまぜになったのだろう。各自が力を尽くした良い試合だった。

 これにて1日目の北大の試合は終了。男子は1回戦突破で明日は九大戦。決勝進出をかけての争い。女子は予選リーグ1位突破。明日に京大と決勝。男女優勝が現実味を帯びてきたことを感じ、一旦の解散。


 筆者は東北大と京大の審判で居残り。

 終わったことだからこその話をする。主審として試合を捌く中、判定に集中するのは当然だが、頭の片隅には各選手を見極めようとする自分がいたことも事実。この試合では東北大4年目の二階堂が6人抜き。彼の絞めの練度に脅威を感じつつ、しかし4人目の対後藤戦で活路も見えた。二階堂が足抜きまで攻め上げるも二重絡みの攻略に苦戦、しかし後藤が回り切り亀を選択したところ、流れるような動きで首を取り絞めにて勝利。ここで事前の予想のひとつであった「二階堂は絞め特化型の反面抑え込みが苦手」説の証明となった。これが北大陣営をして余裕ができたひとつの要因。また同じく東北大の最重要選手6年目の菅原の試合も見て、その気迫や練習量についてかなりの部分察せられた。巧く、強い。しかし勝ち切るためのものではないと思われた。過年度の選手、同期が巣立ち自分だけになったときにどうしても気持ちが乗ってこないのは、七帝柔道がチームの絆を重視することの反作用でもある。もの哀しい思いもあるものの、しかし北大陣営としては好材料。個人的にはこれらの実感を持った上で最後のミーティングに臨めたことが、男子優勝の最後の鍵として大きく効いたと思っている。

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2023年7月3日月曜日

極私的七帝戦帯同記(2022年)①

(特に北大関係者にお詫び)

毎年部誌に掲載されていた小菅先輩の「極私的七帝戦観戦記」ですが、2023年の年明け頃に依頼があり、私が引き継ぐこととなりました。

そこから文章を作成していたものの、諸々の理由から部誌の発行には間に合わず、楽しみにされていた方々には大変申し訳ない限りです。

しかし折角の北大男女優勝の記録を没にするのはもったいないと思い、こちらにアップすることとしました。

現状も誤字脱字など修整中ですが、7/8,9の東京大会までには全て読めるような状態にします。

しかし自分で言うのも何ですが小菅先輩の心情溢れるような文章には当然及ばず、『読みたいのはこんなんじゃあないんだ』という声が多く聞こえてきそうな気はしておりますが、ご容赦いただけると幸いです。

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以下本文。導入~男子初戦(対名大)。

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極私的七帝戦帯同記


 2022年7月2日、仙台。やっと、ようやっと3年ぶりに七帝戦が開かれた。選手たちよりもむしろOBOG等関係者の方がホッとしたところがあったのではなかろうか。

 各大学ともに3年目以下は全員未経験の大会である。何よりもまず、開催にこぎつけられたことに感謝したい。また尚且つリアルタイムでの動画配信にて、例年は観戦に来られない諸先輩方でも遠くから見られることはひとつ可能性を広げたようなものと思う。

 元に戻る部分、新しく追加する要素、変わっていくことも多い世の中である。それは七帝柔道にも当て嵌まることだが、現役達の優勝を狙う気持ちの、その大元のところは恐らく不変。だからこそ我々OBOGは、彼ら彼女らを通してあのどうしようもない日々を思い出せるのだろう。入場制限があるのでしようがないことだが、何とか全国各地のOBOG達の想いが現役達に伝わってくれたらと、そう思う。

 以後は基本北大の話に留める。今年の北大は数も質も高水準の優勝候補筆頭ということで、前評判通りに優勝旗を勝ち取ってきてほしい。男子1回戦は抽選の結果、北大対名大、九大対阪大、東大対京大。


 男子初戦。北大は名古屋大と15人対11人での戦い。

 先鋒は2年目の桑村。上背はないものの身の詰まりと運動量、勘の良さが売り。対するは五鋒4年目松下。開始早々引き込む、下からの返しを狙うようだが、桑村は距離を取ってこれを防ぐ。中腰で防ぎつつ残り3分、桑村一瞬の隙に足を取られ松下を背に負う。一旦そのまま。中央に動かされ、舟漕ぎで絞めを狙われる。桑村は身を縮ませて舌を向く。松下必死の形相で桑村の首筋を狙うが、耐えきってブザー、引き分け。

 続いて次鋒戦。北大は1年目の横森、名大は六峰西村。横森には1年目で層の厚い北大陣営から15人に選ばれた実力を見せてほしい。開始の合図とともに、横森は悠々と前に出る。組手で距離を取る西村の奥襟を取り、前に崩しすぐに背を叩いた。潰したところから縦返し、そのまま横四方に抑え込む。動きに合わせて股を制すれば安定の形。30秒、一本。

 横森の2人目は七鋒4年目の奥城、自分よりもさらに大柄な相手にどう立ち向かうか。立技での真っ向勝負、互いに奥襟を取り譲らない構え。横森そのまま安定させて分けてくれ。残り3分半、遂に奥城に背中を叩かれて帯を取られてしまう。膝を止めてこれを凌ぎ立て直すが、再度奥を叩かれ払い腰、何とか耐えたところから背中に付こうとするもこれを引き剥がされ待て。時計を見る横森、残りは2分44秒、長いだろう、1年目で慣れない試合に、加えて相手は奮起の4年目、スタミナが心配だ。始め、奥襟を取られ、寄せられてから帯取返し、反応して半身で落ちるもそのまま横四方に抑えられる。どうにかもがくも崩れ上四方に移行され、一本。役割を十全に果たせたかとは言えないものの勢いの良い1年目が洗礼を浴びるのはままあるこでもある。1年目としての成果は十分。これからに期待したい。

 北大の三鋒は4年目坂田。彼は大怪我に悩まされていたが何とか間にあっってこの場に立ってくれた。傾きかけた流れを修正するのは上の務めだ、しっかりやってくれ。対してここも取らんと前に来る奥城。坂田まずは組手で十分に捌き、奥城の動きが一瞬止まった隙に引き込む、そのまま横に付こうとするも奥城これは離れて立ち、待て。再度組手争いから今度は奥襟を取られ、不純分な体勢。坂田距離を取りつつ隙をついて引き込む。一気に横に流して背中についた。坂田絞めを狙うが奥城も流石の4年目、首元の守りは固く動じることなし。坂田焦ったか弓矢絞めに入るものの奥城の右手は残ったまま、流石にこれは極めきれず、再度首筋を狙う、残り時間は3分半、まだまだじっくりで良い。左手は脇を制したものの、肝心金目の右手は守りを突破できず。残り1分40秒、状況打破を狙い再度弓矢締めに移行するも、同じ手は食わぬとばかりに回転され正対に戻される。この拍子の捕らえ方は流石4年目といったところか。坂田正対下から前三角を狙うが持ち上げられ待て。始めの合図とともに今度は奥城の展開、坂田を潰し亀に。意地のぶつかり合いだ。坂田ここは守りを固め安定を取る。奥城の縦返しを捌き切って時間。引き分け。

 分け切った後の北大四鋒には3年目國次、対するは名大中堅1年目白帯の宮城。國次はIJFルールでも全国大会に出場している好選手。悠然と礼をし、始め。宮城警戒しつつ組手で捌く形か。國次は落ち着いて右組みに取り、小外刈り一閃、宮城宙を舞い背中から落ちて一本。あまりに綺麗に投げたからだろうか、両手を離してしまっていたのは少々気になるが、消耗もなく1人抜いたのは僥倖。

 続く2人目は七将の4年目西。開始早々に小外で飛ばしたものの、西がギリギリ半身で落ちたか、今度は技有り。亀取の形になるが正対に戻され、國次は嫌って離れて待て。立技勝負が有利と見たか。始め、引き手を取られて引き込まれる、威力は無いので國次の身は残るが、西もここは流石の4年目、落ち着いて國次の動きを見つつ亀に移行。今度は上につき横三角を狙う。しかし西の守りが堅く再度離れて待て。2度目の小外も亀の形で待て。腰を引く西を振り回して払い腰、勢いは十分だったが背中をつけられず宣告は無し。組み際勝負。西が引込十字を狙うも國次ここは落ち着いて持ち上げて待て。再度払い腰で潰して亀にするも隙間をこじ開けられず離れる。投げを主体に亀取、隙があれば横三角を狙うパターン。残り2分を切ったところ一瞬左足を脇に掛けるも展開できず諦めて待て。立技狙い、残り1つ。引き込まれ正対上、片足を越えかけるもそこからが遠い。残り10秒、一瞬のスキをついて足抜きになるも決められずブザー、引き分けられる。実力的には取ってほしいところではあったが、七帝の難しさを知ってくれたことと思う。

 北大五鋒には主将4年目の澤田で、抜き役を並べ一気に勝負をつけたいところ。名大は六将3年目永田。澤田引き込むや帯を取り、下からの返しを見せつつ嫌ったところを流し亀にする。背につき襟を取れば前に動き横三角、耐えた永田の腹が空き遠藤返しに移行。このあたりは流石4年目スムースな流れ。立とうとする永田を潰しつつ、2度3度と機を伺うが中々にしぶとい。脇を差した腕を活かし逆に返す。ブリッジを越えて抑え込んだ。澤田渾身の抑えに永田まともに動けず30秒、一本。宣告後も永田立ち上がれず、恐らく肩を負傷したのだろう。仕方ないし、ままあることではあるが、人数の少ない名大にとって初戦での欠員は致命傷と思われる。

 澤田の2人目は五将4年目青山。引き込んで足を取れば青山体勢を崩し、澤田すかさず前に出て亀に固定する。まずは頭を潰し横三角の準備。残りは5分ある、十分だ。ひと呼吸おいて腕を取り一気に回せば返すことに成功。ブリッジし暴れる青山の腕を縛り、上四方に極めとる。前に出過ぎな気もするが澤田は腰付近を固定する方が得意。、腕を縛っているのも加わりしっかりと抑え切って一本。大きく息を吐く。

 3人目は四将3年目近藤。引き込んで足を掬おうとするが近藤前に出てきて噛み合わず。中腰で対応する近藤を捉えて背中を叩き、逃さぬようしっかり固定。場外際を割っても動きを止めておけば審判そのままを宣告。この辺り自分の優位な状況を確保できたところでそのままを求めるような動きは重要な技術であり、下級生はぜひとも覚えておいてほしい。よし、再開。中腰の近藤を潰そうとするも抜け出され、再度正対の攻防。中腰で一定の距離を保つ近藤を捉えようとするが中々機を見出せず。一旦立ち上がって待て。残り2分、無理をする必要はないが、さあどうする。再度引き込んで正対、澤田は基本分け狙いだろう、近藤の動きを制して残り1つ。近藤の頭が一瞬下がったところに合わせ背中を叩いた。ここからというところだったが主審は待てを宣告。

 注:現在の申し合わせ事項では立技・寝技共に場外且つ動きが継続している場合は安全のため待てを取るような流れにある。動きが連続している中でのそのままは再開時の主張の仕方で有利不利が変わる場合も多く、判断には一定の妥当性はあると言える。しかし筆者個人的にはそのままを基本としたいが、この辺り審判個々の性質に依るところであるため統一は難しい。

 閑話休題。始め、澤田組み際に内股を放つが堪えられ待て。最後に足取りを狙うも届かず、近藤に潰され亀になり時間。2人を抜いて引き分けは立派。

 北大六峰には2年目門馬。名大三将には同じく2年目の井上。まっすぐ前に出る門馬に対し井上は低い構え。立技の攻防が続く。門馬が横に振ったところ井上が崩れ前に落ちる。門馬ここは亀にして横三角、じっくり足をねじ込んでいきたい。一瞬動きが止まったところそのまま、中に移動して再開。立ち上がろうとする井上の頭から足を差し込み2番に移行、しかし潰せていない。ここは井上に立たれて待て。残り2分半。再び立技の攻防の展開。残り1つを切った。場外際で大外刈り、掛かった足を頼りに前に出て身を捻じれば払い腰、これが決まり技有、次いで副審2人の訂正で一本。ここでさらに差を広げる。

 門馬の2人目は副将、4年目の林。ここから8分、長いが何とか保って分けてきてほしい。巨躯を揺すって前に出る林、門馬は距離を取って捕まらぬよう捌く。ここで林が引き込んだ、門馬持ち上げようとしたところ両足を掴まれ倒される。前に出る林。門馬の切り返しが何とか間に合った、押し合いの攻防に持ち込み中腰に逃げる。その中腰のまま耐える門馬に対し、林は襟の手と足で崩す。身体が前に出たところを前三角に捉えられ、門馬参りを打って一本。

 北大七鋒は3年目の藤井。立って捌く。引き込まれるもすぐに離れて待て。それでいい、正対は危険だ。遠間の組手で時間を稼ぐ。場外際の引き込み。藤井すぐに上半身を切るも足が引っ掛かり転倒。猛然と追う林。すんでのところで逃れて場内を回り、状況を戻す。今のはかなり肝が冷えた。再度引き込まれ、持ち上げようとするも林の巨躯を畳から離すのは至難。そのまま場内に戻されて再開。何とか立ったが動きの中で場外際にて引き込まれる。しかしここは主審待てを宣告。こちらとしては助かった思い。ひと息つけるだろう。場内で戦うよう口頭注意があった後に始め。中央で正対、林の胴絡みに藤井は両足をハの字にして土台を構える。下で崩しにかかる林の動きに合わせ、一気に隙をつき頭に回るが抑え込めず。いやむしろこれで良い。中途半端に抑えても鉄砲を食らって逆転されるリスクが高いとみた。北大陣営からも亀のキープを指示、藤井前につき頭を潰すも、林はじりじりと前に出てくる。当然林に諦めの気配は一切ない。よくよく注意だが、藤井好機と見たか背につき絞めを狙う。だが林の対応力が上、正対に抜けられて上下逆転される。藤井胴絡みで凌ぐ形。幸い安定はしている、このまま残りひとつを終わらせてくれ。引き剥がそうとする林にしがみつき続けブザー、それまで。これは大きい引き分け。

 名大に残るは大将ひとり。4年目の小林。北大は中堅、2年目小島。体格的には同程度。だが相手は排水の陣、気を引き締めねば。小島中距離で組み手を弾くが一旦待て。主審から組み合って闘うよう口頭注意。立ち分けにおいてこの辺りの匙加減は本当に難しいものがある。始め、再開。小林の引き込み、正対下に対応しようとするも少々分が悪い。小島ここは正対下の更に下を取り外掛けを狙う。しかし未完成の内に対応され、潜られて背を取られてしまった。亀になってしまう。絞めを狙われ逃げたものの、亀の上に付かれ固定された。横三角を掛けられ、耐えたものの左腕が捕らえられている。地獄絞めとの二択を強制され、反対側の腕も掬われてしまい返される。小島顔を真っ赤にしてブリッジするも腕を縛られ、足抜きの体勢に。こうなると後は我慢するしかない、どうにか堪えてくれ。小島ぎりぎり挟んだ小林の足にしがみつく。小林は腕を縛っている優位だろう、冷静に、じっくりと事を進める。遂には引き抜かれ崩れ上四方。小島力を振り絞り身を捩るも30秒。一本。

 七将には3年目田中。開始早々引き込まれるも正対上から跳ねて捌く、圧をかけ、切り返そうとしてきた小林に競り勝ち亀にする。いいぞ、これは練習した形に入ってきている。横三角で崩してから腹を差して遠藤返しを狙う。腕が入った。しかし少々浅いか。それでも脇を差し回しにかかる、繰り返す中、返し際に小林が一気に動いた。立って逃げられかけるも田中何とかこれを潰して戻す。脇を差していたのが幸いした。一度振ったところ場外に出て、そのままを貰い場内に戻され、よし。腹を括った腕で動かし、再度脇を差して返せば遂に抑え込み。完全に決まったか小林は殆ど動けず、そのまま30秒を抑え切って一本。試合終了。

 名大11人に対し北大は8人で勝ち切り、幸先の良いスタートとなった。その他、初日を突破したのは九大、東大、東北大。この4校で優勝を争うこととなる。

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2022年10月4日火曜日

全国体重別 20221002

先週末の体重別の記憶を多少残しておこうかと。

結果から言えば北大(藤女子大含む)勢は4人とも1回戦敗退で、まあそれも「チャンスはあったのにな」ってものでもなく、やはり地方と中央では層の厚みに雲泥の差があることを実感した。

4年目後藤の試合だけはちょっと疑問が残っていたものの、動画を見直すとそれも解消された。

技有が取り消され一本になったシーンで、僕は試合者の背中側から見ており、そこからすると「勢いが若干不足してるし、まあ技有りだな」と思っていたので、当日は審判団に対して疑いの目を向けてしまった。

正面からの動画では背中の正中線がたたきつけられているのがばっちり映っており、反省。

大会を捌く先生方に妙な疑念を抱いてしまい申し訳ない。


さて別件、今大会で一番気になったのは監督席に座る指導者の割合で、指示出しについてまあルールを守らない。

一応、「『待て』の合間のみ声を掛けることができる」となっていたはずだが、体感3割以上が常時声を張り上げておられた。

ここからは想像なのだけど、そういうことをするのはいつだって中途半端に強い人達。

トップ層は雑事に関係なく勝ち上がれるし、僕らみたいな弱小は弱小故に声を出せなかったり、まあ今回の場合はそういう間もなくやられたり。

中間層が必死なのは分かる、何故なら柔道でメシを食う、或いは食うようになる可能性が残されている人達なので、アピールしとかないと今後に直結する。

ただルールが守られない状況が常態化するのも良くなくて、多分、見せしめとして何人か退場処分にでもすれば多少平和になるんじゃないかな。

そんな不埒なことも考えながら東京を歩いていた。

先週末の暑さが戻った札幌と同程度くらいの気温で、そう不快感無く品川までのんびり。

1~2km歩けば別のエリアに移り、街並みや歩く人たちの属性がガラっと変わるのが、やはり都会だなあ、なんて思いつつ。

結論、自分が刺激を受けたいのであれば流動性が高い中間層になるような環境に身を置くべき。

まあ一番大事なのは、刺激を受けたところで「じゃああなたは何するんですか」ってところなんだけど。



おわり。

2022年9月30日金曜日

横三角

とりあえずこれで1週目ラスト。

毎日更新を思いついて試験的にやってみたが、多少の無理をすれば案外できるもんだと気付けた。

まあ、無理をする必要があることには違いないので、来週からはちょいとサボりを入れて、7日間で5記事上げることを目標にしたい。


とまあそんなことはさておき、今日は練習に行けなかったので単なる技術論でも。

横三角の話。

技術的なところについてはかなり前に纏めているので、そちらを参照されたし。

リンクはこちら

今回は練習で躓きやすい、というか、見過ごされやすい点について語ってみよう。


1.開始位置

片膝でも着こうものなら論外。

亀の相手を崩すのに適した位置を取る。

更に言えば、勝手に動かれたくもないのでこの時から常に圧をかけ続ける。

腕で首、膝で肩を潰す。

この時膝は正中線に対して45°程度の角度から抉ると効き易い。

この段階では相手に対して結果として痛みを与えてしまうが、痛めつけるのが目的ではないことに注意したい。

偶に勘違いする輩が現れる。


2.崩して脇を開ける

遠慮してるのかどうなのか分からんが、大抵の場合崩し方が甘い。

原因は恐らく、「自分は崩れず相手を崩したい」という思考にあると思っている。

僕の解釈としては全く異なっていて、「自分が崩れてでも、それ以上に相手を崩す」。


3.踵と膝を刺し込む

「差し込む」のではなく「刺し込む」、または「抉り込ませる」イメージ。

『崩した相手がこの辺に来てくれればなあ』なんて自分勝手な妄想の下、先に膝を置いておくのはもう何と言うか、相手に対して失礼。

大学生が小中学生を相手にするのなら通用するけれど、そんな練習をしていても何の実にもならんだろう、というところ。


大体そんなところ。

横三角はメジャーな技術なのでとっつき易さはあるものの、正直中高生で七帝のレベルに適う技術なんてほぼ100%やっていないだろうから、実質イチから作り直さないといけない、というのが落とし穴。

そして凡その人が「返してから○○」、その次の段階で「返すには○○」って悩んでいくのだけど、そもそも準備段階から失敗していることに気付くべき。

ただまあ、人間自分の見たいものしか見ないので、僕がちょこちょこ口を出す程度では視野を変えるのは難しい、というのも良く分かった。

そういうことで現状の方針は、なるべく早く躓いてもらって、身に沁みたところでフォローを入れる、というのを基本にしている。

でもあくまで基本なので、言いたくて言いたくて、我慢できず口を突いてしまって結果相手に刺さらない、というパターンは非常に多い。

つまりは指導する側(=僕)の人間的成長も当然必要、ということ。

早く「良い大人」ってやつになりたいもんだ。



おわり。

2022年9月29日木曜日

草刈 20220929

月曜日の基本編に続いて今日は発展形の技研だった。

その途中、基本形あたりからの参加だったのは生憎だが、清田監督の技術が惜しげもなく伝えられたのは想像に難くない。

現役達にとっては消化不良になるくらいの情報量だったかと思うが、ひとまずの見込んでもらいたいところ。

そのうち自然に馴染むものも出てくるだろう。

あとは、上級生には戦略的に選択してほしいところ。

今はまだ1週目で、これからあと9週、全部で50種類の技があるので、その派生形も含めれば200パターンくらい、そんな量になるのではなかろうか。


今回は草刈に限って話をしてみる。

基本編では片襟片袖での引込、上半身を取った側の対角に足を当てるタイプ、から、重心を後背中側に残している相手を倒す動きだった。

この際に自由な手足を相手の踵を刈り取るように使い、また自分の体を相手に寄せて潜るような動き。

対して今日の発展編では、上半身を取った側と同側に足を当てるタイプ引き込みからの草刈だった。

こちらは相手側に潜り込む動きをしない分リスクが少ないように見えるが、それに応じてリターンも少なくなるのが玉に瑕と感じる。

つまりは倒した相手を制するのが難しく、袈裟に抑える形になり易くて安定しない。

袈裟はそもそも抑え切るのが難しいし、逃げられた時に不利な体勢になり易いのが、コストパフォーマンスに欠ける、と思っている。

クラシックなルールの七帝では30秒間抑え切ることが求められるので、しかもそれを3年数ヶ月で仕上げるとなると、かなり難易度は高い。

敢えて挑戦したいというのであれば、止めやしないし、良いモデルケースになる可能性もあるが、まあ、期待値を高くしておきたいのがオトナの思考だろう。


脱線したが、草刈自体は良い技で、あとはその先、もしくはその前に組み合わせるものが重要になるはず。

一方向だけの攻め手は守り易い。

名手、と言うとあまり浮かびはしないけれど、正対下からの引き付けが強い人が草刈も使えるとなると、僕は正直乱取したくなくなってくる。

理由はシンプルで、対処するのに疲れるから。

楽して先輩風吹かせたいものだけど、いやこれがなかなか難しい。



おわり。