2023年7月4日火曜日

極私的七帝戦帯同記(2022年)②

女子リーグ戦~初日終了まで。

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 男子は初日を終えて、続いては女子。今年は選手からの発案があり、参加校の同意を得て3人制の勝抜き試合というルールになった。女子の試合規程にこのような扱いは記載されていないのだが仕方のないことでもある。男子よりもさらに部員数が安定しない女子においては規程の安定的な運用は厳しい。よって毎年各校の主張で微妙にルールが違っているのだが、この辺りどうしていくのかもひとつの問題。

 

 本題に戻る。第2試合会場にて初戦は京大対九大。3人制の勝ち抜き試合においては、1人で勝負が決まってしまう可能性も十分にあり、その最有力候補が九大の猪川だった。京大女子主将の中吉が1人目の百田を巴投げから抑え込み一本を取ると、2人目の猪川とは引き込んで正対下から動きを縫い留めて引き分け。上背やフィジカルの強さ、センスはあるものの七帝柔道の知識や基礎技術には欠ける風に見えた。この辺りはまだまだ2年目というこということだろう。難しい局面もあったが分け切った京大の勝利。


 続いて女子第2試合、北大対東大。3人対3人の試合。先鋒は3年目松倉対1年目広羽。松倉低めの構えから組手を取り、行けると思ったかすぐさま大外刈り、広羽の背を畳に落とし一本。

 続いて中堅は2年目主将の河本。開始後、松倉同じく低い姿勢から様子を見つつ、組むやすぐさま引きこんで正対。左足を担がれ持ち上げられ待て。再開後2人とも組む前に足払いのような動きをするが、勿論組んでいないのでただの蹴り、これは些か問題あると思うのだが。ともあれ再度松倉が引き込む。両袖を捉え、足を使い河本の動きを止める。良い形だ。河本これを切って一旦離れて待て。残り3つ。組み際、松倉今度は何故か背負投げを仕掛け、前に潰れ亀になってしまう。体格では松倉が劣るのだが、耐えきってほしいところ。河本の攻め手を防ぎつつ、甘い横三角に合わせて亀を離脱、良い。そのまま背につき脇を取り返せば足抜きの形。縦抜きは固定が甘く、河本に回転され逃す。しかし引き続き背について安定し、このまま終了、務めを果たす。

 中堅3年目若月対、東大は大将の1年目水野。若月組むやすぐさま大内刈。倒し切って一本。北大は2人残しで初戦に勝利。


 女子3試合目は京大対北大。

 オーダーは松倉、後藤、若月の順。京大は中吉、オウ。北大としては、先鋒で中吉を止めればほぼ勝利確定とみてよいだろう。

 先鋒戦。組手争いから中吉が引き込む。正対。松倉は身を低くするが襟が切れない。そのまま流され背を取られる。まだ1分経っていないが大丈夫か。舟漕ぎから回転、脇を制されており状況は悪い。更に回転、松倉の首元に絞め手が入り込んでいる。絶体絶命か。主審もいつ落ちるかと食い入るように見守る。少しでもずれていれば何とか耐えてくれるか、どうだ。もう30秒は経っているが松倉の動きは止まらず、ぎりぎり耐えられるようだ。ひたすらに右手を絞り耐える。もう1分以上だ。中吉の絞め手が外れた、残り3つを切った。良し、と思った瞬間、すぐさま十字に移られる。松倉この展開には反応できていない。中吉は確実に両手のクラッチを引きはがし、遂には肘を伸ばしきった。ただ松倉の目は死んでいない。まだ耐えられるか、と見ていたところ審判が見込み一本を宣告。例年ならほぼ無かったであろう判断だが、これも途切れた弊害か。しかし審判としての客観的視点から見れば確かに、完全に極められており、尚且つ動きもしない状況を見れば宣告も已む無し、と言えるのかもしれない。所詮松倉の柔軟性は北大陣営しか知り得ないもので、こちら側が積極的に主張すべきだったのだろう。結局のところ、まだまだ闘える選手を畳から降ろしてしまうこととなった。無念。

 北大中堅は4年目女子主将の後藤。引き分けでも十分ではあるものの、 闘志溢れる雰囲気。仇を取る心づもりだろう。先の松倉戦では長く絞めていたから、腕の消耗も大きいはず。勝機は十分。低い姿勢で組み手争い、引き込むと片襟片袖で中吉を引き付け、片足担ぎにもしっかりと対応し優位を確保していく。横に返すもこれは不発、胴絡みで縫い留める。前に圧を掛ける中吉に、敢えて応じて前に崩せれば中吉思わず右手をで重心をとる。後藤残った左の袖口を制して身体を捻り、合わせて膝を掬って足元も固定し十字を仕掛ける。中吉対応し身を退くが後藤は構えを維持。中吉が位置を修正しようとした瞬間を崩し、後藤一気に股下をくぐる。極めたか、どうだ。次の瞬間には後藤身体を離して中吉は敗北の表情。主審遅れて一本を宣告。会場唖然。一瞬の後に拍手。見事、という他はないが、自己判断で離れてしまうのは少々いただけない。相手が「参ったしてない」等と言ってしまえば揉めることは必至で、過去にそのような事例も多くある。清濁併せた強かさも勝利の要素である、無情なことに。

 ともあれ京大は大将の1年目、オウを残すのみ。開始早々後藤気合の発声。オウもここは攻めるしかないと前に出てくる。後藤組際に横に振ってきたオウに合わせ横巴のような引き込み。技の判定があっても良い気もするが、無くても仕方ないか、と思う程度には勢いがあった。正対下、足の踏ん張りの無いオウにすぐさま腕を極め、またもや主審の反応の前に身を離す。王は伸ばされた腕を抱え込み完全に戦意喪失。一本の宣告もできぬうち、主審も戸惑いつつ後藤に勝ちを宣言。これで北大は2連勝。


 女子4戦目。九大対東大は猪川が2人目に出て3人抜きし勝利。少人数での勝ち抜き戦の怖さ。突出した個に対し、15人戦となればカバーの可能性があるところ、3人制では至難の業。ましてや彼女は2年目。脅威はまだまだこれから。

 

 女子5戦目、京大対東大。ここでは京大4年目中吉が東大のエース河本を取り、そのまま3人抜き。


 女子6戦目。リーグ戦の最後は北大対九大。ここまでの試合、猪川の動きが見えてきた分対策も立てられる。体力面や反応速度は間違いなく女子トップ。しかし七帝の細かな技術はまだまだ養えていないというのが北大陣営の結論であった。層の厚みでこちらが有利、勝機はある。

 北大は先鋒に若月。九大は百田。若月下がる百田に油断なく接近し、組み際に大内刈り一閃。一本。さあ次だ。

 九大大将猪川。若月遠間から袖を取り引き込む。横に捌かれ亀に。猪川は横三角、腕狙いと見せて若月の頭が浮いたところ足を組み2番。返され抑え込まれそうなところ、何とか足を差し込み事なきを得る。再度亀になったところ猪川が離れて待て。再開。一気に奥襟狙いの猪川を躱して引き込む。しかしすぐに持ち上げられ待て。引き込み際を押し込まれ、担ぎの体勢。若月ここは後転して亀。猪川続けざまに遠藤返し、崩れた若月の背について強引に返し、更に十字。息もつかせぬ攻め手だが若月要所は与えず何とか捌く。待て。再開後、若月疲れからか重心が少々浮き気味だ。途方もないプレッシャーに感じているのだろう。しかし残り2つまで来た。耐えきってくれ。だが猪川の攻めは激しさを増す。場外際来賓席近く、投げをこらえた、動きの止まった猪川の背が見える。若月がそれを捉えたところでそのまま。またとない好機。もう立たせてはならない。行けるぞ。しかし再開直後に猪川が振り切り待て。流石の勝負勘。劣勢は続き、若月は立っているのがやっとという具合。残りひとつ半。若月何とか組んだものの振り回され、足を刈られて技有。猪川の動きは止まらず頭に回り込み、丸まろうとする若月を圧し潰して横四方。若月もがくが脱出できず、25秒、合わせ技一本。残りひとつというところでこれは無念。

 中堅は後藤。気迫は十分、開始直後は慎重に間合いを見て低い姿勢。喧嘩四つでお互い襟を持ったところ、もう片方の手で猪川の右腕を取り引込十字を狙う。猪川腕はクラッチして守るが足は使えていない。チャンスだ、同期中山の「折れ」の声が響く。その通り。強者相手に中途半端なことはできない。折りに行くより他は無し。じわじわと位置を調整する後藤、遂に腕を伸ばす。しかし身体は猪川の両足に挟まる形、万全ではないが。後藤再度修正を図り、背筋も使って伸ばせば猪川参りを打つ。仕留め切っての一本。見事。

 結果、2人残しで北大の勝利。リーグ単独トップ。勝ち名乗りを受け3人足を揃えて場外へ、後藤が若月に抱き着く、いたわりと安堵がないまぜになったのだろう。各自が力を尽くした良い試合だった。

 これにて1日目の北大の試合は終了。男子は1回戦突破で明日は九大戦。決勝進出をかけての争い。女子は予選リーグ1位突破。明日に京大と決勝。男女優勝が現実味を帯びてきたことを感じ、一旦の解散。


 筆者は東北大と京大の審判で居残り。

 終わったことだからこその話をする。主審として試合を捌く中、判定に集中するのは当然だが、頭の片隅には各選手を見極めようとする自分がいたことも事実。この試合では東北大4年目の二階堂が6人抜き。彼の絞めの練度に脅威を感じつつ、しかし4人目の対後藤戦で活路も見えた。二階堂が足抜きまで攻め上げるも二重絡みの攻略に苦戦、しかし後藤が回り切り亀を選択したところ、流れるような動きで首を取り絞めにて勝利。ここで事前の予想のひとつであった「二階堂は絞め特化型の反面抑え込みが苦手」説の証明となった。これが北大陣営をして余裕ができたひとつの要因。また同じく東北大の最重要選手6年目の菅原の試合も見て、その気迫や練習量についてかなりの部分察せられた。巧く、強い。しかし勝ち切るためのものではないと思われた。過年度の選手、同期が巣立ち自分だけになったときにどうしても気持ちが乗ってこないのは、七帝柔道がチームの絆を重視することの反作用でもある。もの哀しい思いもあるものの、しかし北大陣営としては好材料。個人的にはこれらの実感を持った上で最後のミーティングに臨めたことが、男子優勝の最後の鍵として大きく効いたと思っている。

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