2023年7月6日木曜日

極私的七帝戦帯同記(2022年)④

男女決勝。

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 女子決勝戦。

 北大対京大。

 予選リーグでは勝利しており本日においても勝算は十分。ここはきっちりと優勝を決めて男女優勝への弾みとしたい。北大は松倉、後藤、若月の順。対する京大は主砲の中吉を先頭に置き、1人で決めきる作戦。

 初戦、松倉対中吉。組み手争いから中吉が引き込む。松倉は中腰で対応。左手側の襟と足を取られて危ない形。戻せたかと思ったところ、重心に掛けられた足を起点に返され、松倉亀に。不穏な展開。見れば松倉の左腕が出てしまい、中吉の足に絡めとられている。地獄締め、万事休すか。絞めを狙われるが松倉出来る限りの防御。中吉時間がかかると見たか、左腕の固定を一旦解除して今度は背につき舟漕ぎを狙う。松倉の身体が揺らされる。亀に戻ったところで不利のままに腰が固定されてしまう。已むを得ん。松倉、今だ、リスクを承知で今動くしかない。残りは3つ、その状態では差し切られてしまう。しかしこちらの想いとは裏腹にじわじわとした攻防が続く。遂に松倉の首に手が差し込まれてしまった。時既に遅し。しかし松倉最後の抵抗、中吉の消耗を狙い身をよじって暴れるも落ちてしまい一本負け。分け切れなかったものの次に繋ぐ意思は感じられた。悔しいがチームの勝利への布石にはなったはず。

 中堅には後藤。前日とほぼ同じ展開に会場の息が静まる。始め。ここも前日に違わず低い姿勢から組手争い。しかし今回は無理はしない作戦か、落ち着いた印象。正対下の後藤、中吉これを担ぐ。後藤ここは亀に回って逃れる。覆いかぶさる中吉に対し、後藤は身体を少しずつずらす。中吉が大きく動いたところに合わせて正対に戻した、巧い。正対の上下が逆転。後藤は重心を低くして距離を取り、安全圏を確保。そうだ無理をする必要はない。中吉は片襟片袖の形。固定できたところで足を跳ね上げ後藤を返す。後藤は再度亀。残り3つだ。中吉は後ろから絞めを狙う。後藤は入ってくる手と足に対処し続ける。残り1つ。中吉の回転に合わせて動き、後藤ここで再度正対に戻す。中吉は距離を詰めようと動くが後藤ここは一旦離れて待て。あと33秒。中吉組み際に大外。後藤はこれを腰を引いて躱し、潰れて回避。そのまま残りを亀で逃げ切って終了のブザー。

 勝敗の行方は大将戦に託された。北大の若月対、京大のオウ。オウも前に出るしかないことが分かっているのだろう、開始直後から攻めの姿勢で来たところ、若月落ち着いて対応し内股。ひとつふたつと足を継いで跳ね上げれば、オウの背を畳に落とし切る。一本、お見事。しかし一縷の望みを捨てず、闘う意思を見せていたオウにも拍手を送りたい。

 チーム揃っての勝ち名乗り、女子は堂々の優勝を決めた。畳を降りた後藤が駆ける。試合に出ないメンバーも含めて女子全員で喜びを分かち合う。団体戦で勝利する喜びとはこういうことだと、見ていて自然にそう思えた。さあ次は男子の番だ。


 遂にオーダーが貼り出された。会場中の注意がボードに向かう。7年前のことが思い出される。あの時は両校の主砲(北大副主将今成と東北大主将大岡)が先鋒でぶつかり合うという中々見ないものであったので、当時を知るOBOGは半ば期待や不安があったことと思う。ちなみにこの時の東北大が先鋒今成を読んでいたのかどうかは知らない。聞くのも癪だし、しかし聞いたことがあったかもしれないがその場合は悔しさから忘れたのだと思う。

 閑話休題、昔の話は置いておくとして、以下に今回のオーダーを記す、名前(年目)。

北大は先鋒から横森(一)、長尾(二)、桑村(二)、石川(四)、坂田(四)、北川(三)、門馬(二)、タナカ(三)、澤田(四)、里信(三)、玉本(三)、藤井(三)、國次(三)、石田舜(四)、羽成(二)と、層の厚さを活かした布陣。特徴的なのは2年目白帯の長尾を初出場させ尚且つ横森の後ろの次鋒に置くという采配だろう。ひとつの賭けであったが、チームの意思としては分の悪い賭けとは思っていなかった。また中間はほぼ3,4年目で固めており前半を守り主軸、後半に攻撃的な選手を置き、相手エースに抜かれた後の巻き返しにも配慮する形。

 対して東北は菅原優(三)、花川(五)、有本(一)、石田(三)、津田(四)、菅原薫(六)、北山(一)、二階堂(四)、吉永(四)、千葉(四)、茂木(一)、脇野(三)、門馬(二)、菊池(三)、小寺(三)という陣容。こちらは先鋒の菅原優で勢いをつくり、主砲の菅原薫と二階堂は中盤に置いてここでリードを獲て逃げ切る目論見だろう。

 30人が整列する。会場中が見守る中、今年の最終戦が始まった。

 先鋒戦、北大1年目横森対、東北大3年目菅原優。組み際、菅原が流れるように座り込んですぐさま前三角、横森ここはすぐさま持ち上げて待て。再開後同じく座り込む菅原、横森は身体を浴びせてのしかかろうとするが、空中にいる間に身体を流されてしまい亀に落とされる。菅原は横森の側面につき首と股下を攻める。横森右手で菅原の膝を掴む、がそうではない、これは絞めを狙われている。守るべきは首と脇だ。しかし1年目にはこのあたりの対処は厳しい。菅原は横森のミスを逃さずそのまま腕を首に差し込み片羽絞め、背に回って横森万事休す。数秒耐えたものの参りを打ち一本。東北大から拍手が上がる。この際菅原は右の指を立ててこれに応じたが、これはちょっとどうかと思った。勝ち切ること、分け切ることの重要性を理解し尊敬している我々にとり、この手のアピールはパフォーマンスが過ぎている気がして個人的には好みではない。北大の側でも似たようなシーンは時折見られるが、恥ずかしいのでやめてほしいと思っている。閑話休題。兎も角これで早くも東北大がリードを取った。


 退場する横森に替わり、北大の次鋒は2年目白帯の長尾。東北大は一同「ここも取るぞ」という雰囲気。体格はあるものの脅威は無いと感じ取ったのだろう、菅原は戦意満々に前へと出てくる。組んでから余裕をもって引き込み、下からの返し、長尾これに合わせて跳んで躱したところ、菅原はなおも下からの攻めを狙う。まだ距離はあるものの長尾が上から足を抱え込んだ。この瞬間北大から拍手。あの時北大陣営の心情は一致していた、内容は「かかった!」のひと言。このとき東北大陣営はまだ気づいていなかっただろう。菅原自身も違和感は覚えたようだが方針転換はせず、両者暫く静止したのちに菅原が足を開いた。ここで長尾は菅原の両足の間に身を入れ込み、その脇で菅原の足を固定、身体を落として不動の構え。菅原攻めあぐねる。暫くもがき、ここからオモプラッタを選択。しかし長尾の巨大を押し切るには足らず。菅原不発を悟るや切り返し前三角を組もうと動く。長尾ここは持ち上げて待て。宣告の後、菅原が首筋を抑えて動かない。変な動きはなかったはずだが。主審が促すと不承不承と言った具合で開始戦に戻る、長尾困惑した様子だが、ここは気にする必要は無い。始め。再開後またもや菅原が引き込む。長尾も同じく足を脇に抱えようとしたところ菅原のバカ締め。長尾これには少々慌てたようだがきっちり対処して戻す。菅原有効打を見つけられないのだろう、表情が開始直後のそれとは異なってきている。実はこれこそが北大の作戦だった。この前夜、決勝のオーダーを考える際に突如降って湧いた案。「寝技主体で攻めてくる相手なら、それも正対下から始める選手なら長尾でほぼ止まるんじゃないか?」皆が「確かに」と思った。現役部員でなくとも指導陣でさえ、正対上の長尾が一旦安定した形を取るとこれを崩すのは非常に骨が折れる。全員が数秒考えた結果ほぼ満場一致での賛成。以上が東北大戦に長尾が起用された理由だった。試合の話に戻る。大きな動きは無し。残り2つ。場外際のためそのままがかけられる。ここで主審が不可解な動き。副審を呼んだがしかし自らは離れてしまった。ここは状態の保存のためにも3人がかりで引きずって移動させるのが妥当な場面のはず。この結果長尾は握っていた手を放し、北大陣営からの「離すな」の指示ももう遅い。結局微妙に形が変わった状態で「よし」の宣告。菅原の動きに長尾ついていききれず、離されてしまう。元の形なら違っただろうに勿体無い。長尾ここで前に出るが躱され逆に亀に。その背についた菅原は絞め狙い。長尾の首に手が入ってきた、危ない。腰絞めだ。ぎりぎり長尾の手が間に合った、首の手が剥がれた。しかしまだ。再度菅原に後ろにつかれる。残りは1つを切った。ここは辛抱だ長尾。菅原は首と脇を狙う。長尾今度はどちらもきつく締め込んで隙を見せない。残り20秒、10秒。菅原は最後に十字を仕掛ける、が長尾動かずブザー。この引き分けは大きい。

 北大三峰は2年目桑村、東北大次鋒は5年目花川。まずは組み手で距離をとり、引き込む花川に対し桑村は中腰で対応。胴絡みには距離を詰めて固定、花川が距離を整える際にすかさず蹲踞。良い反応だ、状況の固定ができている。上級生相手で最も怖いのは経験値の差、つまりは様々な状況に対応能力の差である。動かされれば自然と最も弱いところが露呈し、そこに付け込まれるリスクがあるわけだ。しかし桑村は正対上で維持しておりこの点安心して見ていられる。花川は無理を押して攻めに行こうとするも、桑村は断固として維持。安定のまま残り2つ。身体を引き延ばされかけたところ、桑村なんとか持ち上げ待て。宣告の直後桑村力が一気に抜けたか、花川が少々勢いのある形で畳に落ち、主審これにバスター疑惑で注意を与える。多少気にしても良いが、気に病むことはない。幸い、桑村はメンタル面にはていひょうがある。大丈夫だろう。再開後花川が前に出てくる。桑村は距離を保ち良いところを取らせない、場外、待て。再開後も引き続き立技で捌き花川に手を与えず。焦れた花川が引き込むが桑村当初の形に戻す。それでよい。残り30秒。ここで花川の右手が桑村の帯を捉えた。桑村亀になり身を固める。花川は背につき右に左に回転するも、桑村は隙を与えず。場外での動きを止められないと判断した主審は待てを宣告。残り2秒、はじめ、すぐさま時間。2年目ながら流石の安定感で失点を防ぐ。

 北大四峰には4年目石川、東北大三峰は1年目有本。石川ここは取りたいところ。開始後石川が引き込めば、すぐさま有本の右足を抱えて流す体勢。成功。じわじわと登り、亀の横についてネルソンを狙う。下半身は固定でき、有本の右足を捉えたが首と脇は不十分。中々に堅い。1年目にしてこの亀の水準は、東北大の教育力の高さが見える。石川反転しての抑え込みを狙うが、ここは有本の反応が良く正対に戻される。残りは4つを切ったところ、まだチャンスは作れる、ぜひともここで取り返しておきたい。石川は有本の肩越しに帯を取ったところ、ここで有本が前に出るような動き。腰が浮いておりこれはチャンスり石川身を潜らせて返せば足抜きの形に落ちる。しかし右足は二重に絡まれている。石川二重絡みをそのままに腕緘みを狙うが、それは流石に無理がある。まずは足の解放が必須。言えぬ心配をよそにここは有本が1年目であることが幸いしたか、腕の攻防に気を取られ二重絡みが緩んできた。残りは1つと40秒。石川今度は首極めに切り替えて縦抜き。抜けた。抑え込み、しかし形は不安定。ここを逃せば恐らく次のチャンスはない。抑え切れるか。有本が必死のブリッジを繰り返し、北大陣営は祈りつつの30秒、どうにか過ぎた。一本。ここでタイに戻す。しかし石川、拳をつくってのアピールはやめてほしい。相手への敬意が損なわれるように思える。恥ずかしい。

 東北大四鋒は3年目石田。立って寝ての両輪を持つ抜き役。石川ここが勝負所、きっちり引き分けて務めを果たしてほしい。開始早々組み際、石川が引き込んで石田の足を二重に絡めとる。石田はこれに応じて足抜きの形。よし。一般的にはピンチにも見えるがここは石川得意の形。絡んだ足の位置も現状問題は無い。1人抜いた後のスタミナだけが不安要素。何としても抜きたい石田。残りは5つ。ここで石川の首を抱えて縦に抜く形、足首まで抜けてしまい危ないところ。しかしギリギリの攻防、石田の不安定さを見抜いて動いた石川が競り勝ち反対側に返す。次いで足を戻し胴絡みの形に入った。がしかし安定し切る前に持ち上げられ待て。残り時間は4つ、まだまだ長い。再開後またも同じ形。石川は足を絡んで得意のパターンに持ち込む。上体を固めようとする石田の無理を感知、隙を見て二重に絡む。良い流れ。残り2つ半、石田の上体をずらすことに成功したが、ここは石田が大きく動き、前進の圧に負けて石川亀に。前につかれて横三角を狙われる。がそれは普段から散々同期にやられている形でもある。石田必死に返すが、これは準備が甘い。石川は返しの直後の不安定な一瞬に足を絡む。二重絡みに移行、抱き着いて石田の上体を縫い留めればブザ-。今の流れは北大にある。

 五鋒対決。北大は4年目坂田、東北大も4年目の津田。幹部同士の対決。会場の息が詰まる。前に出る坂田、強気だ。津田が下がりつつ引き込んだところすぐさま横に捌けば、たまらず津田は亀になる。坂田は横について得意の形。ここは場外間近のためにそのまま。今度は互いに状態を保ったまま中に戻って再開。経験者同士だとこうなるので、変な心配は不要。坂田有利の形のままで、ここは取って次の菅原薫に当たりたいところ。津田の首を狙い絞めに回るがここは津田の対応が早く逃げられる。上下逆転して正対するが、坂田すぐに立ち上がり離れて待て。再開し、津田の引き込み坂田は捌く、津田再び亀。坂田今度は津田の腰を潰して逃がさないようにする。続いて首を取って津田の身体を回せば、これはいけるか。がしかし津田がすんでのところで回避。正対して残りは4つを割ったところ。正対下の坂田は頭の方に動いて距離の修正を図るが、津田に足腰を握り止められて上手くいかない。正対上の津田が自ら背をつけ下になったところ、坂田動いて隙をつき、片しかし前進は困難と見たか離れて待て。始め。津田が引き込み、坂田合わせようとするが津田慣れてきたか対応され今度は捌けない。やはりこのレベルだとチャンスを作るだけでも難しいか。残りは半分。坂田不用意に出した左足を抱えられ体勢が崩れてしまう。流石にこれは振りほどけずに時間、最低限目標達成ではあるが悔しい引き分け。

 六峰戦。北大は3年目北川、東北大は6年目菅原。菅原は1年目の頃から出場しており優勝も経験している。自らの巨躯の活かし方も分かっており、経験の長さからくる技術の幅に加え、試合勘も十分心得たもので相手としては相当に厄介な部類。北大優勝の大きな壁のひとつ。始め。北川はここは立技で引き分けを狙う。前に出る菅原、喧嘩四つで北川の襟と袖を取る。場外に出て待て。再開。立っての攻防は続き、再度場外。組み手争いの中、北川の左手が菅原の顔に当たった。いや北川、気にせずとも大丈夫だ。残りは5つ。菅原投げは分が悪いと見たか今度は引き込んだ。北川すぐに離れろ。思うも空しく、足を抱えられ回転、菅原に上下逆転されたところでそのまま。ここで菅原出血、一時救護の下へ。北川、集中を切らすなよ。戻ってきて中央部で再開。正対上の菅原が前に出る、単純な押し込みであったとしても、この体格差では防ぎきるのは困難。北川抑え込みは逃れるがどうしようもなく亀になる。菅原はやはり6年目試合運びが巧い。しかし、北川は何とか耐えてくれ。北川の亀に対し菅原は首と脇を狙う。そのまま北川を一旦振りまわして返すが、北川ぎりぎりでこらえて回転、よし正対に戻った。ただし十分な距離感ではない。菅原の圧を躱すにはもう少し距離を稼ぎたいところだがそそでそのまま。北川の右足先が菅原の上位に巻き込まれており危険と判断され、掛かっていた足が外される。よって再開後はこちらが不利な体勢、浮いた足が菅原に担がれ一気にピンチ。北川抵抗し足を入れ込むが、この体格差は受け流し切れず動きが止まったところで抑え込みの宣告。ブリッジを狙うが返せず。菅原崩れ上四方に移行、北川は全身で抵抗するも30秒が過ぎ去る。一本。

 北大七鋒は2年目門馬。北川と比較すると技術は劣るものの、体格がある。分け方のタイプは全く違うから、上手く噛み合えば何とかなるはず。始め、落ち着きたい菅原に対して門馬前に出る。良い判断だ。主導権を握られるとリスクは急速に増大していく。菅原の息は荒い。消耗具合もかなりのものだろう。喧嘩四つ、釣り手を突き合う形。よしよし、力負けはしていない。菅原焦れたか、片襟のみで内股を掛けるがこれは効かず、場外で待て。門馬安定している。いいぞこのまま終わらせたいところ、残り3つ。ここで菅原が引き込んだ、流れが変わりかねない、危ない、と思ったところ場外で待て。菅原の引き込みと待てのどちらが早かったかは定かではないが、安堵。再開、門馬は先に同じく釣り手で距離を取り、菅原に優位を与えない。しかし菅原に多少の勢いが戻って来ている。内股。ここは門馬堪え、寝技に雪崩れ込む菅原から即座に離れる。残り2つだ。組んだところで菅原がまた引き込んだ。がしかし門馬もきっちりと反応してすぐに離れて待て。流れは与えない、良いぞ。残りは1つ半。内股に来たところを耐え背に付こうとする、その瞬間菅原が一気に振り返り足を取ろうと出てくる。門馬ここも反応し、安全策で離れて待て。かなりのプレッシャーだろうに、まだ判断力は落ちていない。再度組み手の攻防。場外、待て。どうにかこの流れのままで終わらせたい。ここで門馬に場外注意が与えられた。だがしかし残りは45秒。下手なことをしなければ凌ぎきれる。門馬、大丈夫だそのままでいいぞ。残り20、10、5,ブザー。堂々の引き分け。菅原を2人目で止めたのは大きい。北大勝利への基礎が築かれてきている。

 中堅には3年目の田中、東北は七鋒1年目北山。田中にはここで1点取り返してもらいたいところ。開始から10秒、組み手争い最中に田中巴投げ。北山を完全に浮かせたが、ギリギリで半身を切られ技有。田中動じることなくそのまま亀取に移行。横三角を陽動に遠藤返し狙い。北山反応が良く甘い横三角に合わせ自ら回転して逃れようとする。田中一旦亀になるがすぐに立って逆転。亀取を維持。今度はじっくりと横三角をつくるが、しかし既に陽動であることが見抜かれている。田中ここは立ち上がって待て。仕切り直しだ。潰して亀取、立っては巴投げを狙う。北山合わせて動くが、田中はこれを更に切り返し再度亀に落とし、同じ流れに持ち込む。残り3つ。今度は北山の身体を引き出し、崩しを十分に利かせる。しかしここでも北山の隙間は空かず。下半身けら崩しにかかるが容易ではない。残り1つと20。田中ここで一旦離れて待て。再開後北山を潰して亀取を狙うも不十分、またもや離れて待て。亀への移行の際に狙うが上手くはいかず。時間。悔しい引き分け。

 北大は1点ビハインドのまま中堅4年目澤田、東北大七鋒はこれも4年目二階堂。菅原薫に続きもう一つの大きな壁。ここが分水嶺。下手をすれば延々と抜かれかねない相手だが、実のところこの時点で我々北大陣営は対策を立てることはできていた。つまり二階堂の強みは明白で、最も怖いのは亀取、横付きからの絞めであり、しかし他の攻め手はこれに比べ2つ3つは格が落ちる。依って可能であれば立技で、体格差で振り回されるなら引き込んで正対、亀にだけはなるな、なっても最悪抑え込まれろ、という作戦であった。最悪5人で止められれば、まだぎりぎり勝ちの目は残ると、そういう判断をしていた。果たして澤田が選んだのは立ち分けであった。開始以降徹底して、腰を引きひたすらに二階堂の引手を絞り落とす。二階堂は対策されているのを理解しただろう。その上で取るべく澤田を振り回す。澤田は試合場をフルに使って立ち回る。場外際での攻防が続く。残り3つ。ここで澤田に場外注意が入った。今時間帯での注意はペース的に危ない。積み重ねで反則負けに届き得る。当然二階堂もこれに気付き、立ち回りが若干変わった。流れが傾きつつある。場外際、待て。ここで逆に二階堂に押し出しの口頭注意。これで嫌な流れもひとまず落ち着いた。本音を言えば、個人的には場内外関係なく、互いが積み上げたもので向かい合うのが筋と思う。しかし現役の彼ら彼女らとしてはまずは結果だろう。規程の間隙を突くその気持ちも十分に理解できる。澤田このまま逃げ切れるか。残り1つ。ここで澤田に警告が与えられた。次はない、が、この時間なら何とか、あとは信じるより他はない。もう引き込んでも良いだろう、最悪亀でも凌ぎきれるのでは、と思っていたが、澤田は立ち続ける選択。だがよし、まだ足が十分に使えている。きっと大丈夫、総て振り絞ってやり遂げてほしい。待て。残りは8秒だ。もう、ほとんど何をしても終わらせられる時間だ。だが澤田はの動きは変わらない。ここで安易に背を向けたり、亀になったりしないところに彼の芯の強さを感じる。いよいよブザー。北大陣営からは万雷の拍手、澤田は雄たけびを上げた。誰に向けるでもない感情の爆発があった。開始線に戻った時にも良く分からん動きをし、多分本人も自分が何をしたいのか分かっていないのだろう。しかしこの引き分けにはそれだけの価値がある。5~6人抜かれることも想定していた菅原と二階堂を計3人で止め切った。後半の駒の総力はこちらが上回っているはず。1人差を巻き返しての優勝、道が拓けた。あとはそれを現実のものとしていくのみ。

 六将は3年目里信。東北大は七将4年目吉永。里信は組み際の投げを狙う。九大戦とは打って変わって生き生きとした動き。吉永は身を低くしてここを守る。里信長いリーチを活かし吉永を潰して亀に。ここで残りは5つ。よし十分に時間はある。確実に取りたい。吉永の頭を潰して横三角を狙うがやはり守りは固く、里信一旦離れて待て。吉永には立姿勢から直接亀にならぬよう口頭注意がなされる。再開、組み手争いの中で吉永が身を引いたところに大内を合わせれば、そのまま浴びせ倒してこれが一本。勢いが何とも言えないところで、審判により判定は分かれそうな印象。ただし流石決勝、両者とも寝技の展開に備えていた。だが判定が変わることはなく決着。北大に流れを寄せる一勝となった。

 里信の続く2人目は六将4年目千葉。確か彼は初心者スタートで基本は分け役だったと思う。しかしここにあっては気合十分、猛然と前に出てくる。4年目としての意地、形振り構わぬ圧を感じる。里信これに飲まれることなく、落ち着いた立ち回りをすれば千葉が引き込む。里信ここはすぐに引き上げて待て。再開、前に出る千葉、里信は遠間から牽制して時間を使う。ここで待て。里信に組み合うよう口頭注意。里信今度は前に出て組みに行けば、千葉は引き込もうとする。里信は掴んだ道衣を十分にコントロールして千葉を亀に固定。千葉の頭を潰して動きを止める。残りは4つを切ったところ。無理することはない、そのまま潰して終わらせたいところ。残り2つ、ここで里信が急に離れた、何故だ。本人のみに分かる何かがあったのかもしれない。再開後組み手争いから大内刈り、ここは千葉が反応、前に潰れて回避。里信が亀を嫌って離れようとしたところ千葉が前進。捕らえられる寸前、里信これを切って跳んで躱す。少々ヒヤリとする展開だったが事なきを得た。待て。残り1つ半。組み際の大内は躱され、しかし千葉を再度亀に固定。ここで里信の勢いが完全に停止、スタミナ切れだろう。幸い優位を取れていたためそのまま固めて時間。引き分け。

 タイのまま五将戦。北大は3年目玉本、東北大は1年目茂木。茂木が引き込んだところ、玉本左に捌き、茂木は亀に。玉本その背に取り付いて足を絡めとりネルソンの構え。茂木が身を切ったところに方向を合わせて返せば足抜きの体勢に持ち込んだ。このチャンスで極めきりたい。玉本確実に茂木の腕を縛り、そのまま足を抜けば抑え込み。茂木が身体を捻った瞬間、空いた背中に腕を差し込み崩れ上四方、盤石の抑え。30秒を抑え切ってここで北大が1人リード、逆転に成功。

 玉本の2人目は四将3年目脇野。玉本奥襟を取られ、圧し潰されて亀。脇野に頭を潰されるが、降りてきた左袖を掴み取る。しかし腕の固定まではできていない。脇野の動きに振り回される。脇野の右腕が腹に入ってきている。玉本、離れろ。まだ浅い、今なら間に合う。玉本しかし逃げ切ることはできず、脇野は右腕で玉本を煽り、体勢を崩されてしまう。2度3度と繰り返して位置を調整され、遂に裾端の良い位置を握られてしまった。必殺の位置。玉本どうにか逃れてくれ。しかし願い空しく、脇野は十分な勝算を持って返しにかかる。玉本多少踏ん張るがやはり競り勝つことはできず、抑え込みの宣告。こうなれば残り時間を使い切り次に繋ぐしかない、玉本、振り絞れ。その抑え込みは脇を制しきれていない分、まだ動く余地があるはずだ。玉本暴れるものの振り解くには至らず、30秒が経ち一本。状況はタイに戻された。

 北大四将には3年目の藤井。ここは再びリードを奪わんと前に出る。脇野は一旦落ち着きたいのだろう若干身を引く展開。藤井そのまま押し切って脇野を潰し、亀になったところ、横三角を狙う。これに脇野が反応し、その拍子に首が空いた。藤井一気に右手を差し込み身を躍らせる。背中の方へ回り込めば送り襟絞めの形になり、脇野数秒耐えるも参りを打って一本。藤井の一連の動きに見る勘の良さは固有のもので、教えてできるものではない貴重な資質。ともあれこれで1人リード。

 藤井の2人目には三将2年目門馬。北大の門馬とは双子の兄弟。開始早々藤井の内股、門馬これは腹から落ちてポイントは無し。藤井そのまま亀取に移行するが、門馬の手が藤井の足を掴んでおり思うように動けない。藤井ここは一旦門馬の頭を捉え座り圧を掛ける。じっくり勝負をする構え。じわりじわりと圧をかけ続ける。足の固定が緩んだ瞬間、藤井ひと息の内に門馬を振り切り立ち上って待て。残り4つ半。藤井立技で奥襟を叩けば門馬は畳に落ち両膝を着く。しかし藤井の袖は持たれたまま、思うようには潰せない形。要所要所で守りが行き届いている。如何にも東北大の分け役というべき細やかさ。日々の練習の賜物だろう。藤井は何とか亀にするも、門馬にじわじわと前に出られて捕らえられるリスク。ここは一気に離れて待て。再開後も藤井の投げ技に合わせて潰れ亀で守る門馬。藤井は中々ペースをつかめない。残り2つ。亀にできるものの隙がない。ここで審判が動く。門馬の立技から直接亀に移行する動きに口頭注意。だが残り時間は1つと少し。ここから反則を積み重ねさせようとしても難しいところ。再開。藤井は変わらず立技からの攻めを狙う。門馬が崩れたところで首が空いたか、背中に回って絞めを狙う。しかしここは顎にかかっていたようで決まり切らず、しかし絞め手がずれてきたところ最後のチャンス、十字を仕掛けるも対応されて時間。ペースを引き寄せられず引き分け。

 三将の3年目國次、東北大は副将同じく3年目菊地。終盤戦だ。必要条件ではないものの、出来れば國次には取ってきてもらいたい。北大優勝の確実性を積み増ししてほしいところ。始め。組み際得意の小外刈り。タイミングは悪くないようだったものの、ここは菊地の引込優位とみられポイント無し。続いて正対上から攻めを狙う。しかし菊地の足の利きと柔軟性に優位を取れず、引き上げて菊地の肩が畳を離れたところで待て。再開後も流れは変わらず、引き込まれれば菊地の足を越えられず、距離を詰めて担いでも受け流されてしまう。離れるにしても菊地は手足の長いタイプ。油断すれば足を取られ刈り倒されかねず、妙に嫌な時間が続く。残り5つ、4つ、3つを切った。お違い決定打はない。國次は防御姿勢をメインに変えている。確かにリードしている今、それでも問題は無い。残り1つ半。菊地が一瞬離れたところ、國次距離を取って待て。菊地は出血のため救護の方に移動。待つ間國次は腰を落とし息を整える、消耗が激しいようだ。再開、後がないのは東北大側、菊地はリスク承知で攻めに来る。正対下から襟を取り、また足を取り、身を傾けて崩そうと迫る。國次ここは無理せず分けに徹して時間。引き分け。

 北大は副将の石田と大将の羽成の2人を残し、東北大は大将の小寺のみ。

 副将4年目石田対大将1年目小寺。両校正座して場内を見守る。相手は置き大将。石田、お前で決めてくれ。開始早々、石田は背水の小寺を圧倒せんと掴みかかれば、小寺たまらず亀になる。石田は小寺の襟と帯を取ってそのままを貰い中央へ。よし。石田圧をかけて小寺の上体を固定し、続いて小寺の足を掬い上げてそのバランスを崩させれば、腹の隙ができたところに腕を差し込む。ここから1度2度と大きく煽り腕を深く入れていき、行けると踏んだか肩越しに帯を取って返して抑え込み。少々荒い形ではあるもののここで終わらせてくれ。5秒、10秒、石田の口から猛る声が出る。抑え切るための気合か。15秒。両チームからの声が響く。抑えられている小寺は必死の形相で逃れようとしている。抑える側の石田は、顔を下に向けており表情は窺い知れない。また石田の雄たけびがあがる。20秒、抑え込みにずれはない、25秒、まだまだ間違いない形を維持。30秒。一本。勝った。遂に優勝。2011年入部以来、一度も見たことの無かった場所に、ようやく立ち会えた。

 15人で勝ち名乗りを受け全員が試合場を離れる。男女も指導陣も車座に集まり、肩を組んだところで「いいですか?」、澤田が尋ねる。清田監督が応える。澤田の前口上。続くは勿論、都ぞ弥生。


 3年ぶりの2日間が終わった。七大学柔道関係者として、でき得る最大限の形での開催だった。次は東京、きっと観戦も出来る世の中になっていることと期待し、男女連覇を目標に精進したい。

 結びに、七帝戦の実施に当たり関わっていただいた全ての方々に感謝し、キーを打つ手を止めることとする。

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